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2008.7.31
 
 


北京のスモッグを見て…

 流石に驚いた。
 北京五輪メーン会場がスモッグでくすんでいるのである。(1)視界数100mらしい。

 東京オリンピックの時も空気は相当汚れていた筈だが、これほどひどいものではなかった。自動車だけでこんなことになるとは思えない。このスモッグの元凶はなんなのだろうか。
 常識的にはこれほどの微粒子が発生するとしたら、煤塵を多量に排出する石炭燃焼だろうが、確か、オリンピック開催1ヶ月前から、粉塵を発生させる工事や、セメントや化学工場などの操業を制限するという話がでていた筈。その程度ではさっぱり効果がないということだろう。もしかすると、煙モクモクのディーゼル車だらけなのかも知れぬ。
 ともかく、広大な北京市だけでなく、周辺地域一帯の大気汚染が常態化してきており、手のつけようが無いということのようだ。

 問題は、目に見える微粒子だけではない。オキシダント濃度も半端な状況ではない。
 「環境GIS」で東アジアにおける光化学オキシダント濃度予測を眺めると、2008年7月27日12〜18時は中国内陸部に巨大な高濃度領域が存在している。0.151ppm以上の地域もある。(2)外出を避けるべき状況で、とてもスポーツどころではない。
(日本の大気汚染防止法:0.12ppmで都道府県が注意報発令, 米国環境基準: オゾン濃度0.12ppm)
(尚、ロスアンゼルスは大幅に越していたため、カリフォルニア州は車の排出量削減に取り組んだ訳である。)
 ただ、その後、7月30日には、かなり収まったところを見ると、車対策の成果かも知れぬ。こちらは、なんとかなるのかも。

 ともあれ、エチオピアのマラソンランナー Haile Gebrselassie選手が、2008年3月、早々と北京オリンピックに不参加を表明したのは、賢明だったと言えよう。(3)
 日本では報道内容が曖昧なものが多かったからよくわからなかったが、マラソン参加選手の体調変化情報を得てから下した結論のようである。

 屋外での長時間レースは健康被害リスクが高いことはWHOが早くから指摘していたが、(4)喘息もちにとっては相当に危険なレベルのようだ。
 だいたい夏に開催するのだから、ロスアンゼルス型の光化学スモッグ発生は避けられない。こんななかで走らされるアスリートはたまったものではなかろう。

 しかし、中国政府もそんなことはわかっているのだから、開催時期に合わせて、本気で大気汚染抑制に取り組むと思っていたのだが。期待外れである。もっとも、取り組んだところで、そうは簡単に成果はでないという可能性もあるが。
 まあそれでも、連日スモッグが発生することはなさそうだから、最悪でも日程変更程度でオリンピック開催はどうにかなるだろう。
 問題はその先だ。

 流石に、微粒子対策は進むだろうから改善されていくだろうが、工場廃棄ガスの徹底した規制やオートバイ禁止令でも出さない限り光化学オキシダントはひどくなる一方ではないか。
 10年後は、冗談抜きで、ガスマスクで外出という状況に入るのかも。

 こんな話をついしてしまったのは、米国は選手用に特別なマスクを準備済みだというニュースが世界を駆け巡ったから。(5)流石、米国の組織。

 一方、日本は急遽産業用の市販品を調達したという。(6)これは、とてもスポーツに使えるような代物ではない。日本の組織が得意な、様子見と泥縄式対応だ。

 たまたまオリンピックの話ではあるが、両者の違いは象徴的である。
 よく知られるように、南カリフォルニアでは、とうの昔から、大気環境のモニタリングとシュミレーションを進めている。日本はそれに追従しているようなものだろう。米国では、工場などの発生量も公開されているが、おそらく日本ではそんな方式はとるまい。  対策にしても、ロスアンゼルスでRECLAIMが始まったのは1993年のこと。(7)キャップ・トレードがどうのこうの長々と議論するより、ともかくやってみようとなるのだ。

 日米の組織文化は全く違うことがわかる。
 片方は、問題を早くみつけること自体が嬉しいのだ。その解決のためならなんでも挑戦したらよかろうというスタンス。
 その対極の姿勢は、問題を指摘するとゴタゴタするからなるべく表沙汰にしないというもの。そして、周囲の状況をみながら解決策を考えるのである。
 まあ、健康な生活をおくれることができさえすれば、どちらでもかまわないのだが。

 --- 参照 ---
(1) “「緑の五輪」危うし、北京の大気汚染いまだ改善されず” AFP [2008.7.29]
   http://www.afpbb.com/article/beijing2008/beijing2008-news/2423758/3170502
(2) 環境GIS http://www-gis5.nies.go.jp/osenyosoku/oneday.php
(3) KATIE THOMAS: “Citing Pollution, Gebrselassie Opts Out of Olympic Marathon” NewYorkTimes [2008.2.11]
   http://www.nytimes.com/2008/03/11/sports/othersports/11olympics.html
(4) “WHO fears over Beijing pollution” BBC [2007.8.17]
   http://news.bbc.co.uk/1/hi/world/asia-pacific/6950883.stm
(5) CHRISTOPHER RHOADS and STEPHANIE KANG: “Olympic Athletes Wearing Masks ould Cause China to Lose Face”
   Wall Street Journal [2008.7.21] http://online.wsj.com/article/SB121659379072468809.html
(6) “五輪選手団、防塵マスク持参 大気汚染対策に完全防備” 朝日新聞 [2008.7.21]
   http://www.asahi.com/sports/update/0728/TKY200807280216.html
(7) “An Overview of the Regional Clean Air Incentives Market (RECLAIM)” EPA 2006
   http://www.epa.gov/airmarkt/resource/docs/reclaimoverview.pdf
(光化学スモッグ注意報発令を知らせる看板の写真) [Wikipedia] http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%BB%E5%83%8F:
  %E5%85%89%E5%8C%96%E5%AD%A6%E3%82%B9%E3%83%A2%E3%83%83%E3%82%B0%E6%B3%A8%E6%84%8F%E5%A0%B1.jpg


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