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2009.6.8
 
 


CO2排出量削減目標を巡って…

CO2排出量削減
中期目標支持率(1)
- 2005年比 - - 支持率 -
− 4% 15.3%
−14% 45.4%
−21% 13.5%
−30% 4.9%
わからない 20.9%
 「地球温暖化問題に関する懇談会」(1)での、CO2排出量削減の中期目標に関する主張の差は余りに大きく、議論する状況ではなかった。“マイナス4%”派と、“少なくともマイナス30%”派が独自の論理を持ち出すのだから、残るのは感情的対立のみ。
 前者にしてみれば、世界最高水準の省エネを実現しているのに、それ以上推進したら、とてつもないお金が必要となり、経済がどうなるか考えればわかる筈ということになるし、後者から見れば、マイナス4%という数字など、ほとんどお話にならぬ数字ということになる。後は、首相の政治的決断ですよ、というだけ。
 こうなるのはもともとわかっていたとはいえ、少しは、コスト・ベネフィットの視点から、目標設定の仕方について議論して欲しかったが、ないものねだりか。
− 4%派: 既に高エネルギー効率を達成しており、これ以上の排出削減は厳しい。
−14%派: 京都議定書を下回る目標設定は、他国から大きな批判を受ける。
−21%派: 「低炭素革命」で世界をリードするにふさわしい目標を。
−30%派: 温暖化対策の必要性は科学の要請であり、志の高い目標値が必要だ。

 リーダーシップを発揮できる状況にない首相が下せる決断としては、誰が見ても、マイナス4%か14%しかないが、目標値設定にそれほど大きな意味はないのでは。目標値が決まったからといって、実現するとは限らないからだ。重要なのは、誰がコミットメントするのかはっきりさせることだ。それができないと、下手をすれば、スローガンで終わりかねないからだ。
 「−14%」を主張した、寺島日本総研会長は“実現するために必要な政策の責任ある遂行を明確にするべき”と指摘しているが、(2)その通りだと思う。それに、以下の施策ができさえすれば成功という訳でもなかろう。


 気になるのは、、経済成長とエネルギー安全保障をどう担保するかという点。
 例えば、原子力発電ひとつとっても、国内で建設できる状況にあるとは思えない。

 だからこそ、「国民運動」という視点もあろうが、(3)そういう問題ではないのでは。
〜人間原因説の認識率〜(4)

91%
92%


49%
48%
44%
アイスランド
ノルウエー
デンマーク
フィンランド
スエーデン
38%
47%
49%
53%
63%

59%
63%
58%
 と思うのは、なにかしなければならないという認識は、すでに国民あまねく広がっているからだ。欧州とは比較にならないほどの認識率の高さである。
 しかし、その欧州を見てわかるように、認識レベルが低いから、リーダーシップが発揮できない訳ではないのである。企業にビジネスチャンスと感じさせることができれば、新市場は立ち上がる。
 日本は、格段に環境意識が高い社会なのだから、それを活用する斬新な政策が求められているということ。効果が薄い分野に注いでいる力を、実効ある分野に方向転換させるだけでも、相当な効果が期待できると思うが。(日本が世界最高レベルのエネルギー効率を実現できたのは、この高い認識率のお蔭と見られている。)(4)

 ともあれ、リアリズムで語れるように、体質転換を促進する必要があろう。
 日本がいくら頑張ったところで、世界のCO2排出量シェアから見て、影響力などゼロに近い。日本が高い削減目標を掲げたからといって、発展途上国が生活レベル向上を諦める訳もいくまい。
 日本がどう動けば、世界全体で、最大の効果が期待できるのか、冷静に考えるべきだろう。欧州の動きなど、見方によっては、中東欧を巻き込むことで、競争優位を実現しようとしていると言えないこともない。外交はパワーのぶつかりあいというのが現実であり、環境問題は、安全保障と経済力強化の動きから独立している訳でもないという点も忘れるべきではなかろう。

 そんなことを考慮すると、目標値の議論もさることながら、気候大変動の時代を前提に、先手を打っておくことが重要なのではないか。
 亜熱帯化や、異常気候多発に、どのように対処するか、考えておく必要があるということ。例えば、マラリアやデング熱の治療方法や撲滅研究に注力するとか、豪雨や強風の発生を早目に探知し緊急警告を発して、人的被害を最小化する仕組みを作りを始めるということ。
 もちろん、効率的な冷房や、新たなライフスタイルも必要となる。イノベーティブなアイディアを探し、研究でも進めたらどうだろう。

 目標数値を巡って、批判合戦をしたところで、何のメリットもなかろう。

 --- 参照 ---
(1) 地球温暖化問題に関する懇談会(第9回) [2009年5月24日] 内閣官房
  http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tikyuu/kaisai/dai09/09gijisidai.html
  “地球温暖化対策の中期目標に関する国民的議論の結果概要”
  http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tikyuu/kaisai/dai09/09siryou1.pdf
  [video] http://nettv.gov-online.go.jp/prg/prg2590.html
  “「地球温暖化対策の中期目標に関する世論調査」の結果(概要)”
  http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tikyuu/kaisai/dai09/09siryou1-2.pdf
  “各選択肢を支持する主な意見”
  http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tikyuu/kaisai/dai09/09siryou1-1.pdf
  “[参考資料]「中期目標検討委員会」の分析結果の概要” 2009年4月
  http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tikyuu/kaisai/dai09/09sankou.pdf
(2) 寺島実郎委員: 「地球温暖化懇談会への意見書」 [2009年5月24日]
  http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tikyuu/kaisai/dai09/09siryou3-3.pdf
(3) 経済同友会: “「世界に先駆けた持続的発展を可能にする社会づくりを」 〜ポスト京都に向けた日本の社会変革〜”[2009 年5月18日]
  http://www.doyukai.or.jp/policyproposals/articles/2009/pdf/090518b.pdf
(4) Brett Pelham: “Views on Global Warming Relate to Energy Efficiency Relationship exists regardless of national wealth, literacy” Gallup [April 24, 2009]
  http://www.gallup.com/poll/117835/Views-Global-Warming-Relate-Energy-Efficiency.aspx#2


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