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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2016.2.23 ■■■

劇語

「續集 卷四」に"劇語"という単語が2度登場する。成式創作用語のようだ。
Joke/玩笑 or 滑稽話という意味だろう。ただ、あくまでもストーリーが必要で、一寸した合いの手に近い軽口とは違うし、落チは必要ではない。
と言うことで、ご紹介。・・・

【劇語其一 飲酒】
俗好劇語者雲,昔有某氏,破産貰酒,少有醒時。
其友題其門闔雲:
  “今日飲酒醉,
   明日飲酒醉。”
鄰人讀之不解,曰:
  “今日飲酒醉,是何等語?”
於今青衿之子,無不記者,
《談藪》雲:
  “北齊高祖常宴群臣,酒酣,各令歌。
 武衛斛律豐樂歌曰:
  ‘朝亦飲酒醉,
   暮亦飲酒醉。
   日日飲酒醉,
   國計無取次。’
 帝曰:
  ‘豐樂不諂,是好人也。’”


酒で身上を潰した人がいた。
破産しても、ツケで。
その時だけシラフだったりして。
友が門に落書き。
 "今日も飲んで 酔いまかせ、
  明日も飲んで 飲みつぶれ
また飲んで"
その隣人はコレどういう意味かと?


ハハハ。

北齊の高祖が群臣を集めて宴を催し、
歌を詠うように命じたそうナ。
豐樂律の調子で詠った臣あり。
 "朝からまたも 酒盛りで 酔いが始まる。
モットモダー
  暮にもまたも 酒盛りで 酔いが深まる。
モットモダー
  日々の酒盛り 酔い続け。
モットモダー
  お蔭で国は 財政破綻。
ア〜ア モットモダー モットモダー"
帝曰。
  嘘をつけぬ酔いヤツじゃ。


ハハハ。

【劇語其二 藻豆】
予門吏陸暢,江東人,語多差誤,輕薄者多加諸以為劇語。
予為兒時,常聽人説陸暢初娶童溪女,
   毎旦,群婢捧,以銀奩盛藻豆,
    陸不識,輒沃水服之。
其友生問:“君為貴門女婿,幾多樂事?”
陸雲:“貴門禮法甚有苦者,日俾予食辣,殆不可過。”
近覽《世説新書》雲:
  “王敦初尚公主,如廁,
    見漆箱盛幹棗,本以塞鼻,
    王謂廁上下果,食至盡。
   既還,婢フ金漆盤貯水,琉璃碗進藻豆,因倒著水中,
    既飲之,群婢莫不掩口。”


貴族の家に婿に入った男のお話。
毎朝のことだが、
奴婢が藻豆入りのボウルを持ってきてくれるのだと。
それを、いつも、水も一緒に服用していたという。
友が、上流の暮らしはさぞ楽しかろうと訊くと、
 そうでもないと。
朝の豆味が余りに塩辛くて耐え難いと。


そりゃそうだ、石鹸用の豆なのだから。

トイレに入った話。
箱が置いてあり、棗が入っていたと。
そこで、すべて食べたという。
それは、鼻栓なのだが。
そして、藻豆入りボウルを奴婢が持ってきた。
豆ごと水を飲みほしたという。
奴婢せせら笑い。


こうした笑い話の本質は「奇」を見つけること。社会の規範に外れてしまい大損している他人の様子を「奇」として見ているに過ぎないが、それを通じて一種の優越感に浸れるから、笑に繋がるのである。
そのことを、成式は、それとなく伝えているのだと思う。

そう感じてしまうのは、成式の"劇語"は、よくある滑稽譚とは違いそうだから。
普通、そうしたお話での笑いは、著者の感覚と、読者の気分が一致して発生する。しかし、上記の書きっぷりからすると、そうとは思えない。同じような話をダブらせる必要がないからである。
成式は、これらの話で、はたして笑っているだろうか、ということでもある。

特に、藻豆話における笑については、考えておく必要があろう。

自分の社会的地位を考え、規範から逸脱しないように努力してはいるものの、リスクは存在するというストーリーだからだ。
秩序を脱する試みはリスクが高そうに見えるが、秩序のなかに自分を閉じ込めておくリスクも決して低いとも言えないということ。
「酉陽雑俎」とは、逸脱をお勧めしている書とはいえまいか。

逸脱の第一歩は言うまでもないが笑である。
つまり、情報だけの真面目な書はゴミ。しかし、不真面目な話で笑を誘う反体制書に映ったら、ゴミどころか、秩序を乱す危険本にされかねない。
成式感覚で本を著すのはそう簡単なことではないのである。

いくら親の七光りがあろうとも、官僚と天子取り巻き宦官が権謀術策を駆使する世界で生きているのだから。もちろん、それ以外の世界とは、ヒトがヒトとして扱われない社会。中華思想に染まった社会とは、それは当たり前のこと、

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎 4」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.
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