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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2016.2.29 ■■■

夜光芝

紫外線で発光するオワンクラゲの緑色蛍光タンパク質を分離確定したことで、下村脩博士はノーベル化学賞を受賞した。画期的な成果だが、発光現象そのものは決して珍しいものではない。
にもかかわらず、この特定物質に着目した洞察力の鋭さには誰でもが脱帽するのではなかろうか。そして、ひたすら徹底解析を続けると曙光が見える筈との直観力の冴えは驚異的と言ってもよかろう。

・・・生物の蛍光発光現象は、獣や草木といった身近な種では知られていないが、オワンクラゲ同様な仕組みを持つ生物はバクテリアから深海魚まで五万と存在するのである。
本稿の題名の「夜間発光する芝(キノコを意味する。)」も決して珍種の部類と考えるべきではなかろう。実際、日本の茸の名前を眺めれば、どのような特性か一目瞭然の、月夜茸、夜光茸、網光茸、等が存在する訳だし。
要するに、真っ暗闇のなか、林に足を踏み入れようという御仁は、茸屋さん以外には滅多にいないだろうから、発光現象を実際に見た人は極めて少ないダケ。

これが現代の夜光芝を巡る、背景的な「ものの見方」。

成式もおそらく、こうした感覚のお方。
幽霊の存在など、全く信じていないタイプなのだから。

言うまでもなく少数派である。
なにせ、上層部は道教一途の天子と、これまた信仰教義に基づく祭祀と生活ルールを遵守するだけの取り巻き宦官達で成り立っているのだから。当然ながら、そこには自称壺仙人も居ついている訳だ。
そんな社会で、高級官僚達は生き抜いていかねばならぬのだ。下手に発言すれば、命さえ危うくなるのは必定だから、慎重な書き方になるのは当たり前。

従って、夜光芝についても、ほんの数行ほどの記載に留めている。以下のように、ポツネンと。
これだけだが、ここから、読者は自らの直観力で、主旨を読み取れと読者に語りかけているのである。と言うか、勇気を振り絞って、一寸、触れてみたのだと思う。

 夜光芝,一株九實。
 實墜地如七寸鏡,視如牛目,
 茅君種於句曲山。
   [卷十九 廣動植類之四]
 夜光芝は一株に9つ実が生る。
 その実が地面に落ちると七寸の鏡の如し。

 (夜間、)目を凝らすと牛の目の瞳のように
 (一様に明るく)映える。
 (これは"霊"の仕業ではなく、
 そのような特性を持つ茸と考えるべし。
 単なる植物の一種に過ぎない。)

どうかな、この最後の解釈。
もちろん、コレは壺史と関係していると踏んでのこと。

 長慶初,山人楊隱之在州,常尋訪道者。
 有唐居士,土人謂百人。
 楊謁之,因留楊止宿。
 及夜,呼其女曰:“可將一下弦月子來。
 ”其女遂帖月於壁上,如片紙耳。
 唐即起,祝之曰:
  “今夕有客,可賜光明。”
 言訖,一室朗若張燭。
[卷二 壺史]
 道士巡りがお好きな方からの伝聞。
 100歳と言われている有名な道士を訪ねたという。
 あまりに強く引き留められたので、それならと、宿泊したと。
 その時のお話。
 その道士は
 「下弦月(三日月)を持ってくるように」と言ったそうな。
 するとやをら壁に貼り付けたという。
 まるで紙のような月だったとか。
 道士は、
 お客様がいらしているから、
 明るく輝けと呪文的に声をかけたそうで、
 するとその月が輝き始めたという。

成式、夜光塗料を想定しているのでは。

もしも、成式が日本に生きていたなら、朔月に、2畳部屋の壁に紙満月を飾って、利休を招待したのではなかろうか。
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