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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2016.3.13 ■■■

竹譜

成式は「竹」を、<木篇>[卷十八 廣動植]で扱っている。草とする訳にもいかんし、"松竹"を対で考えたければ、当然の姿勢か。その辺りの分類論には全くふれていない。言わずもがなということか。
契沖「古今余材抄」では、竹は木ではなく、草でもないとなっており、これが一般な見方なのであろうが。
 植物之中 有名曰竹
 不剛不柔 非草非木
 小異空実 大同節目
 或茂沙水 或挺岩陸。


これは、最早的とされている戴凱之の「竹譜」での記載でもある。ただ、"《山海經》、《爾雅》皆言以竹為草,事經聖賢,未有改易。然則稱草,良有難安。"であるが。

この出版物の序には竹に関してどのような著述があるかが記載されているが、もちろん、「酉陽雑俎」も含まれている。成式は"《竹譜》:竹類有三十九。"と記述しており、数が余りに違いすぎるので気になるようだ。コレ、いかのも成式流。そこまで詳細に分類する必要はなく、少しまとめたらどうということでは。
 《酉陽雑俎》称《竹譜》竹類三十九,
 今本乃七十餘種,稍為不符,
・・・数えると61だが。
 疑《酉陽雑俎》傳写誤也。
それは別として、どのような印象を与える書かがわかる。・・・
 其書以四言韵語記竹之種類,
 而自為之注,
 文皆古雅。


ついでながら、《竹譜》と言えば、普通は陳鼎の著作。過去の書物を検討した最新本だからだろう。
検索すると、以下のような本が残存しているようだ。
  戴凱之:「竹譜」
  惠崇 :「竹譜」
  呉良輔:「竹譜」
 :「竹譜詳録」(知不足斎叢書)
  劉美之「續竹譜」
  陳鼎:「竹譜」・・・竹譜題辭〜60種類〜跋
他に、賈思の「斉民要術 巻五 種竹第五十一」にも記載があるが、観点は筍食となる。

成式が注目したのは、歳寒の折に緑を保つといっても、竹の寿命はせいぜいが60年という点。これでは、ヒトより長命とは言い難かろう。
松にしたところで、"松命根遇石則偃,蓋不必千年也。"ということで寿命1,000年に根拠などないヨと言っている訳である。竹の良さとは成長が速いという点。南方の植物だから当然で、生き急げば早死になるだけ。しかも、最期にようやく花を咲かせて逝くという生涯。寿ぐような植物と言えるだろうか。遅速なら長生きも可能な訳で。そう考えれば両者は好対照。
  竹花曰。死曰。六十年一易根,則結實枯死。

しかし、以下の種をあげることで、そんな話だけで、南方で竹が尊崇対象になる訳があるまいと指摘しているのである。それでは、どういうことか、見てみよう。

【棘竹 or 芭竹】
  節皆有刺,數十莖為叢。
  南夷種以為城,卒不可攻。
  或自崩根出,大如酒甕,縱相承,状如繰車,食之落人齒。

「竹譜」では、"土人破以為弓。"とも。城になるというのも、オーバーな表現ではない。棘もさることながら、株立ちしているので、そこを人馬が通れるように切り開くとか、燃すことも容易なことではないからだ。強固な城壁であるのは間違いない。
【筋竹】
  南方以為矛。筍未成時,堪為弩弦。
これでおわかりになるように、南方では武器になる重要な木なのだ。

それに加えて、恐ろし気な竹もある。但し、たった一言で説明無し。
【百葉竹】
  一枝百葉,有毒。
毒竹など聞いたことがない。
しかし、この竹、「竹譜」にも"生自南垂"として、掲載されている。その毒たるや、生半可なものではなく、猛烈と。実見ではなく、引用だが"竹有毒,土人以刺虎豹,中之輒死。"とのこと。
竹稈を刺し細菌感染症で死亡という線も考えられないでもないが、どう見ても樹液による致死である。
と言うことは、これは、夾竹桃系。(致死例は少なくない。)

上記以外は2種。もちろん、「竹譜」非掲載種。慈竹は違う名前で収載されているかも知れぬが。

墮竹】
  大如脚指,腹中白幕闌隔,状如濕面。
  將成竹而筒皮未落,輒有細蟲齧之隕,後蟲齧處成赤跡,
  似繍畫可愛。

名称は、崩れた蕾のような竹だろうか。訳がわからぬ。
おそらく、虫が媒介する病気にやられたのである。果樹では、錆病や赤衣病がよく知られており、油断すればすぐに発生。稲の類縁でも決して珍しい病気ではなかろう。
それが美しい模様になることもママあろう。錦まではいかぬまでも、罹患した竹の"白向斑,虎斑,虎彪,胡麻"といった模様を愛する竹マニアが存在しておかしくない訳で。赤衣病の場合は"天竹責"と呼ばれたりしていたようだ。但し、日本でのことだが。

【慈竹】
  夏月經雨,滴汁下地,生蓐似鹿角,色白,食之已痢也。
現代の植物名称として使われており、それが該当するとすれば、熱帯性の10m以上に伸びる株立ち型の竹になる。
成式が目をとめたのは、成長速度が群を抜いているからだと思われる。ただ、その速さを実際に観察した訳ではないので、異常な数字に思え、記載をためらったのでは。と言うより、成長が速いので寿ぎの樹木としているのなら、慈竹をイの一番の竹とすべきではないのかネと言おうか迷ったのであろう。
従って、注目すべき種としてあげるに留めたのだ。
この竹の用途は、おそらく広範にわたる。そうなれば利用価値が高いから栽培している可能性あり。この点も、成式は本当かいナと感じたであろう。
竹林産キノコ採取の魅力があるとも思えないのに、食こそ命の民族が非食用植物を栽培するとは思えないからだ。
それは一理ある。しかし、名称から見て、猛烈な降雨による土壌流失防止には、この竹を植えるのが一番ということでは。成式がわからない筈もなく、この竹の繁殖はまずいゾということ。

(参照) 伊藤一雄:「日本における樹病学発達の展望---日本樹病学史---(1)」 林業試験場研究報告第174号
(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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