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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2016.3.14 ■■■

鷹狩

「卷二十 肉攫部」を取り上げておこう。

"肉を攫[さら]う"ということであり、鷹狩の薀蓄話である。
成式の本格的趣味だったのだろう。
その情熱はマニアの域をはるかに越えており、専門家そのもの。当時はそんな貴族がちらほら存在するほど大流行していたのだと思われる。
しかし、成式の興味の対象は、鷹匠にまかせ、獲物を捕まえ愉しむ狩猟ではなさそう。飼育によって鷹の性情を知り尽くしたかったようだ。

とはいえ、そんな話では読者にそっぽを向かれかねないから、鷹狩流行を後押しするかのように、記述内容の大半は「取鷹法」といかに鷹を愛でるかの評価話。

従って、鷹狩に無縁な一般人が読んでも現実感ゼロ。ここは、なんの面白味もない箇所と言えよう。

しかし、専門家は逆である。
将軍様に召し抱えられた日本の鷹匠の必読文献になっていたりする訳で、関心を持つ少数の人々にとってはお宝である。
中国文学や中国思想を専門とする方が、そのような分野の著作をわざわざ読むとは思えないので、邦訳本は鷹の名称等に触れるだけで、字面だけの翻訳で済ましてあると思ったら、豈図らんや。
注記は細かく、まさに脱帽モノ。

と言うことは、この部分を読むことこそ、成式の人となりが一番よくわかるということでもあろう。

ここで書かれているのは、もっぱら羽の色。その美しさに惹かれているのは間違いない。
しかし、それは単純な審美眼から来るものとは違う。
羽の色変わりの理由を知っているからだ。
もちろん、種が異なれば、違う色調になるのは当たり前だが、そういうことではない。地域環境で変わるし、幼鳥から若鳥、さらに成鳥過程での毎年の換羽も変化に繋がるということ。それを愛でようというのだ。
色と紋様で次のように名付けられているとか。尚、「唐」とは黒色。・・・
白鴿 白兔鷹 散花白→青白 赤色 白唐→青 爛堆黄 黄色 青班 赤斑唐→ or 黒 青斑唐→ 荊白代都赤 漠北白 or 西道白 房山白 漁陽白 or 大曲/小曲 東道白 土黄 Kp 白p 青斑 鷹荏子

ただ、何の気なしに、様々な色を並べてある訳ではない。これは夫々どういう意味があるのか、推定して見よと読者に語りかけているのである。
マ、一種のクイズ。
すべての動物は、保護色と言うか、一種の擬態をとるものなのだから。・・・
 凡禽獸,必藏匿形影同於物類也。
 是以蛇色逐地,茅兔必赤,鷹色隨樹。

鷹の場合は、樹木の色に似ているのは、おわかりでしょう、と。

段成式[803-863]は鷹の子育て観察者でもあった。樹木の高い所に巣掛けするから、簡単にわかるものではないが、それを下からじっくり眺めていたようである。その熱意は、ファーブル[1823-1915]の昆虫行動観察を凌駕するのではないか。
もっとも、目的は大きく違う。あくまでも雛を盗むにはどうすべきかという目線から。
凡鷙鳥,雛生而有惠,出殼之後,即於外放巣。
大鷙恐其墜墮及為日所曝,熱迺v損,乃取帶葉樹枝插其?畔,防其墜墮及作陰涼也。
欲驗雛之大小,以所插之葉為候。
若一日二日,其葉雖萎而尚帶青色。至六七日,其葉微黄。
十日後枯瘁,此時雛漸大可取。


雛から育てるだけでなく、捕獲した成鳥の飼育にも注力したようである。
その場合、乱暴に取っ捕まえるような手法を避けるべく、妥当な時期を選び、洗練された道具を使うことを推奨している。網損による病を避けるためにもそれは重要ということで。

成式は贅沢な生活をしていた筈であり、そんな境遇にある者として、鷹狩にはことの他力を入れていたに違いない。ただならぬほど出費が嵩む遊びだからだ。小生の推定に過ぎぬが、高位の宦官との私的交流にはこれを使うのが一番だったのではないか。鷹の薀蓄話を傾ける合間に、天子や后のご意向をそれとなく聞き出せるなら、その価値はただならぬもの。
場合によっては、天子もお出ましになるかも知れぬし。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎 5」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.
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