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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2016.4.9 ■■■

反閨閥

儒教の血筋第一主義がことのほか重視される中華社会では、成式は唐朝の官僚としては申し分なき系譜と言えよう。
段家は、褒國公にして鎮軍大将軍の志玄〜‖〜鍔〜文昌〜成式と繋がるからだ。・・・
祖たる段志玄は隋朝の頃に李世民に面識を得た根っからの軍人。そんなこともあってか、唐朝第2代皇帝[626-649]となった太宗は、自ら志玄の病床に出向いたとされ、死去に当たっては、慟哭と伝わる。

段成式[803-863年]の父 段文昌[772-835年]は白楽天[772-846年]と同時代の有能な高級官僚。
成式の本貫地である山東濱州[鄒平]では尊崇の対象になっているそうだから、父子ともにやり手だった可能性が高かろう。

ここでのお話は、張説[667-730年]。宰相を歴任しており、睿宗と玄宗の信任が篤かったようである。度々左遷されてはいるが、帝ご贔屓のお蔭か、都度復活。詩人としてリーダー格だったからでもあろう。
成式から見れば、だいぶ昔の人だが、わざわざそんな人をとりあげている。

【岳父】卷十二 語資
明皇封禪泰山,張説為封禪使。
説女婿鄭鎰,本九品官。
舊例,封禪後自三公以下,皆遷轉一級。
惟鄭鎰因説驟遷五品,兼賜緋服。
因大脯次,玄宗見鎰官位騰躍,怪而問之,鎰無詞以對。
黄幡綽曰:“此泰山之力也。”


多少、補足が必要か。
1 帝、泰山にて封禅の儀。
2 封禅は王朝にとって最重要。
3 封禪使任官とは官の最高権力者就任と同義。
   中書令(宰相)が執行する。
4 祝儀として、官吏は儀式完了後、一段昇格。

・鄭鎰の"岳父"張説が封禪使に。
  張説の娘婿ということ。
・鄭鎰は、九品官から五品官に昇格。
・鄭鎰は、超特進理由を帝から訊かれる。

常識的には、こういう状況に。
・鄭鎰面紅耳赤、無言。・・・とか。

そこで同僚が助け舟。
・笑いながら、一言。
 「これが、泰山のお力というもの。」

泰山とは五嶽之首、"岳父"。

その後どうなったかは、書いてない。

こんな話を書くのであるから、親の七光りで役職を得たとはされるが、そんなものなくても、自力でその地位は得られて当然と考えていたに違いない。
その自負心もあり、反閨閥意識は相当に強かったと見える。

それがわかるのが次の引用。
【細族孤門】續集卷四 貶誤
開成初,予職在集賢,頗獲所未見書。始覽王充《論衡》,
自雲
 “充細族孤門”,
之,
答曰:
 “鳥無世鳳凰,獸五種麒麟,人無祖聖賢。
 必當因祖有以效賢號,則甘泉有故源,而嘉禾有舊根也。”

ここは、前段に碑文のオリジナリティについての話があったところ。
王充[27年-n.a.]は合理的な思考を重視した思想家である。成式は、お勤め先に最大級の蔵書があるので、この人の著作を読む機会に恵まれたという。そこからの引用である。・・・
王充は孤立した小さな家の出身であり、門閥どころの話ではない。
それを嘲笑った人がいた。
そこで王充はすかさずガツンと一撃。
"鳥は、世襲ではなくして、鳳凰と化す。
 獸は、どんな種であろうと、麒麟と成る。
 人は、祖先がどうであろうと、
  聖賢に登りつめることができる。
 と言うことだが、
 あなたの理屈によれば、
 祖先に因って必然的に賢と号されることになり、
 甘泉には、もとから源ありとなるし、
 嘉禾にも、旧くから根ありとなろう"、と。

下記は、反仏教の先鋭的立場の詩人の作ではあるが、成式も一部は共感を覚えたかも知れぬ。
   「長安交遊者贈孟郊」  韓愈
 長安交游者,貧富各有徒。親朋相過時,亦各有以
 陋室有文史,高門有笙。何能辯榮悴,且欲分賢愚。

成式家は高門であり、陋室からは程遠いが、有文史だがネ、となろう。一番の問題は、そこではなく、長安交遊者,唯愚人有徒。ということであろう。腐敗した宗教屋人口は膨大ではあるが、韓愈が考えるように、儒家が賢人という訳ではないのだヨ、といったところではなかろうか。

世の中、漢の高祖 劉邦[B.C.202-B.C.195年]や、楚の項羽/項籍[B.C.232-B.C.202年]のようなタイプに人気があるわけだが、そのような書とは無縁な人々とはご一緒できかねるとの気分ではないか。
   「焚書坑」  唐 章碣
 竹帛烟消帝業虚,關河空鎖祖龍居。
 坑灰未冷山東乱,劉項元来不讀書。


(参照)
舊唐書167 段文昌
段氏家族与地域文化@中華段氏宗親網 "(一)段文昌対地域文化的貢献、(三)段成式対地域文化的貢献 " 2015-9-25
(参考邦訳)
段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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