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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2016.5.25 ■■■

欲深の真似ごと説話

"ものうらやみはせまじきことなりとか”との、ご教訓で〆るのは、鎌倉時代の説話集「宇治拾遺物語」に収録されている"鬼にこぶとらるゝ事”。俗に言う、瘤取り爺さんのお話。
このモトネタとの説もささやかれる話が「酉陽雑俎」に収載されている。 [続集巻一 支諾皋上]

新羅國有第一貴族金哥。其遠祖名旁竾,
新羅の王族、金哥の、遠い祖先は旁という名前だった。
有弟一人,甚有家財。其兄旁因分居,乞衣食,
弟が一人おり、財産家だったので、その兄の旁は別居して衣食の面倒を見てもらっていた。
國人有與其隙地一畝,乃求蠶[=蚕]穀種於弟,弟蒸而與之,不知也。至蠶時,有一蠶生焉,目長寸余,居旬大如牛,食數樹葉不足。其弟知之,伺間殺其蠶。
その国の人が、一畝の空き地を与えてくれたので、弟に蚕と穀類の種を求めた。すると、弟は蒸したものをよこしたが、旁はそれに気付かなかった。蚕の時期になり、一匹だけ生まれた。見ているうちに長くなっていき、ついには牛の如き大きさになって居ついてしまい、数本の樹木の葉では餌としては不足という状況に。
そのことを知った弟は、間を見て蚕を殺してしまった。

經日,四方百裏内蠶飛集其家。國人謂之巨蠶,意其蠶之王也。四鄰共繰之,不供。
幾日か経つうち、四方百里のうちから、蚕が旁の家に飛んで集まってきた。国の人は、そこでこの蚕を"巨蚕"と呼んだ。蚕の王であるとの意味で。その四方の隣家が一緒になって糸を繰ったが、供出せずに済んだ。
谷唯一莖植焉,其穗長尺余。
種を撒いた穀類の方も、唯一、一本だけ植えることができた。その穂の長さは1尺余り。
常守之,忽為鳥所折銜去。旁逐之上,山五六裏,鳥入一石罅,日沒徑K,旁因止石側。
そこで、何時もその一本を守っていたのだが、すかさず、鳥がやって来て穂を折って持ち去ってしまった。旁は鳥が上っていくのを追ってずんずん進んだ。山を5、6里行ったところで、鳥はある石の裂け目の中に入ってしまい、そこで丁度日没。径は真っ暗なので、しかたなしに、その石の傍らで過ごすことに。
至夜半,月明,見群小兒赤衣共戲。一小兒雲:
 “爾要何物?”
一曰:
 “要酒。”
小兒露一金錐
[=槌]子,撃石,酒及樽悉具。一曰:
 “要食”。又撃之,餅餌羹炙羅於石上。良久,飲食而散,以金錐插於石罅。旁竾大喜,取其錐而還。

夜半になって、月明かりの下、赤色の衣を着た小児の一団がやってきて戯れ始めたのが見えた。
 「みんな、何か要る?」
 「わたい、酒。」
との会話が交わされ、小児は金の錐子を採り出して、石を叩いた。忽ちにして、酒と樽が出て来た。
 「僕は、食べ物。」という声もあがり、
それに応えて石を叩くと、石の上に、餅、羹、炙肉が並んだ。
暫くの間、飲食で時が流れたが、やがて解散。ところが、使っていた金の錐は石の割れ目に挿したまま。
は大喜びして、それを取って持ち帰った。

所欲隨撃而,因是富r國力。常以珠贍其弟,
そのお蔭で、欲しいものがあれば、随時、錐で叩くことで手に入った。国力に匹敵するほどの富を蓄積することになったので、何時も、弟には珠をあげることにした。
弟方始悔其前所欺蠶穀事,仍謂旁:“試以蠶穀欺我,我或如兄得金錐也。”
弟は、欺いた上に蚕を殺したことを後悔し始め、兄に頼むことにした。
 「試しに、私を欺いて蚕を殺して下さい。
  そうすれば、私もお兄さんのように
  金の錐を手に入れることができましょう。」

知其愚,諭之不及,乃如其言。弟蠶之,止得一蠶如常蠶,穀種之復一莖植焉。將熟,亦為鳥所銜。其弟大ス,隨之入山。
兄はそれを愚かなこととわかっていたが、諭したところで聴く耳持たずなので、言われる通りに。
弟の蚕は、結局のところ、普通のモノが一つ育っただけ。穀類の種からも、一本だけ伸びた。実りの頃、同様に、鳥がちぎって取ってしまった。それを見て弟はご満悦。随時、入山とあいなる。

至鳥入處,遇群鬼,怒曰:
 “是竊予金錐者。”
乃執之,謂口:
 “爾欲為我築糠三版乎?欲爾鼻長一丈乎?”
其弟請築糠三版。三日饑困,不成,求哀於鬼,乃拔其鼻,鼻如象而歸。
國人怪而聚觀之,慚恚而卒。

鳥が入っていった所に至ると、そこで鬼の一群に出会ってしまった。怒っており、
 「コイツは、我らの金錐を盗んだ奴だ!」と。
その男を取り押さえ、
 「お前、俺らの為に、糠で版塀を三つ築くか?
  さもなくば、お前の鼻を一丈に伸ばしてしまうが、
  どうする?」と。
弟は、糠の版塀3つを請け負うことに。そのため、3日に渡り飢餓状態で頑張ったが、成功せず。
鬼に哀願すると、鼻と抜かんが如くに引っ張った。結果、象のような鼻になってしまい、その状態で帰宅。
その国の人達は、奇怪ということで、衆人が見物に集まって来た。その恥ずかしさと憤りで死んでしまった。

其後子孫戲撃錐求狼糞,因雷震,錐失所在。
その後の金錐だが、子孫が戯れに狼糞を出せと言って叩いたところ、雷で激震が起こり紛失してしまったとのこと。

業つくばり(強欲張り)が真似をして酷い目に合うという点での類似話は色々ある。しかし、山中での鬼の酒宴に参加し喜ばれ、瘤をもぎとってもらう瘤取られ爺と、瘤を付けられた欲深い爺との対比話がよく似ているのは間違いない。
しかし、その手の対比より、この話に含まれている類似モチーフを見てとる方が意義がありそう。・・・
「鼻長き」ことの恥ずかしさ[「今昔物語」巻二十八「池尾禅珍内供鼻語」,「宇治拾遺物語」「鼻長き僧の事」]や、一寸法師が入手した鬼所有の「打出の小槌」[「御伽草子」]

それにしても、一王族の出自を物語るために作られている筈だが、そこにゴチャゴチャと説話を入れ込む理由がわからぬ。そういう意味で引用された可能性もあろう。
単純に考えれば、儒教の長子相続制度を確固としたものにしたいという願望と、自分達一族の富が国家を支えていることを誇る内容でしかない。周辺部族の神話とは、こんなものという見本か。

(参照) 南方熊楠全集第4巻 論考 第2「烏を食ふて王に成た話(14)」]
(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎 4」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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