表紙
目次

📖
■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2016.5.27 ■■■

象鼻杯

「象鼻杯」は、知る人ぞ知るといった特殊用語の筈だが、意外なことに、ご存知の方が結構いらっしゃる。と言っても、理由は単純で、朝から酒を飲むための理由づけにすぎない。コレ、実は、「酉陽雑俎」の以下の記載から来た言葉である。
歴城北有使君林。魏正始中,鄭公愨三伏之際,毎率賓僚避暑於此。取大蓮葉置硯格上,盛酒二升,以簪刺葉,令與柄通,屈莖上輪菌如象鼻,傳吸之,名為碧杯。歴下學之,言酒味雜蓮氣,香冷勝於水。 [卷七 酒食]
山東の歴城県の北に使君林があった。
魏の正始年間
[240-249年]のことである。
地方長官の鄭公愨は、7月中旬から8月上旬の酷暑の頃
(三伏)には、毎年、官僚を引き連れ、この林に避暑に出かけることにしていた。
その際には、大きな蓮の葉を取って、台に置き、酒2升を盛ることにしていた。そして、葉に簪を刺して孔を明け、茎である柄の穴につなげた、屈曲した茎とその先はまるで象の鼻のよう。これをかわるがわる吸う訳である。
そんなこともあって、これを、碧杯と名付けていた。
歴城の人達もこれを学び取り入れた。
酒には蓮香からくる気が混じると言われており、単なる水より冷たさで勝ると評価されていた。


要するに、林間の消夏飲酒イベントである。普段は温燗のドブロクだが、こういう季節は濾した清酒を冷で飲もうゼということ。
当然ながら、朝酒であろう。実に良いご身分だが、そのような余裕ある統治で問題が発生しない社会の実現こそが、現実を踏まえた最適解と言えよう。それこそが成式好み。

マ、一般的には、長命の酒杯とされたのだろうから、唐代には「荷葉杯」と名付けた工芸の粋たる酒器が流行った筈。夏季の朝酒用冷酒器であろう。

故宮博物館@台北の所蔵品に、宋〜明代の逸品とされる蓮の葉形状の玉杯があるが、かなり凝った作りであり、この手の酒器には特別な思いがこめられていそう。
詩にも詠われているし。
  「荷葉杯」 温庭
其一
一点露珠凝冷,波影,滿池塘。緑茎紅艷兩相乱,腸断,水風凉。
其二
鏡水夜来秋月,如雪,采蓮時。小娘紅粉對寒浪,惆悵,正思惟。
其三
楚女欲歸南浦,朝雨,湿愁紅。小船揺漾入花里,波起,隔西風。

もちろん、酒と旧友を愛する白楽天も。
  「酒熟憶皇甫十」 白居易
新酒此時熟,故人何日来。自從金谷別,不見玉山
疏索柳花,寂寥荷葉杯。今冬問帳,雪里為誰開。


尚、「象鼻杯」と呼ぶのは日本だけかも。お遊びイベントだから、その方が合っている。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎 4」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

 「酉陽雑俎」の面白さの目次へ>>>    トップ頁へ>>>
 (C) 2016 RandDManagement.com