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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2016.6.4 ■■■

帝釈天

帝釈天は仏教護持の偉大な存在とされてはいるが、三十三天話はよくわからないところがある。
 時天帝釋,為諸天衆,説是法時,諸天放逸。
  「正法念處經卷第三十一 觀天品第十 三十三天之七」

なんといっても、いかにも豪壮な御殿だらけで、そこでの遊戯の規模も半端ではない点が目に付く。
そんな生活をどう支えているのかが判然としないからだ。
しかし、その世界とはどういうものか、たちどころに示してくれる。そこは象の帝国であって、龍の帝国ではないのである。
帝釈天は、もちろん象の国の王なのだ。6本牙ではなく、10本持つ大象を百頭飼っているらしい。それこそが楽園維持基盤の象徴。

千輻輪殿,天妃舍支所坐也。衣無經緯,將死者塵著身。馬殿千鵝駕,金剛糸延帶。行林隨天所至。衆烏金臆。大象百頭,頭有十牙,牙端有百浴池。頂有山,名曰界莊嚴。鼻有河,如閻牟那河,水散落世界為霧。

脅有二園,一名喜林,二名樂林。
象名伊羅婆那。

光明林,四維有意樹,帝釋將與修羅戰,入此林四樹間,自見勝敗之相。
甲胄林,甲胄從樹而生,不可破壞。
蓮出摩偸美飲也,修一千二百善業者生此天。
上妙之觸,如觸迦旃鄰提鳥,此鳥輪王出世方見。


ソースは"一応"こんなところとしておこう。
ここらは、インド経典から引いている可能性が高く、仏典を探しても意味は薄いからだ。
時天帝釋乘於千輻四輪之殿,其殿莊嚴,七寶所成。

或有馬殿,其行速疾;或有金鵝,毘琉璃足,赤蓮華寶以為兩翅──天子乘之,隨天帝釋向善見大城遊戲之處。

  「正法念處經卷第二十六 觀天品第六之五 三十三天之二」

"千の輻がある車輪"は釈尊の足裏/掌についている文様を指すが、常識的には説法の表象。千輻輪殿が存在するのだから、奉る意思を示していることになる。

同時に、帝釋天妃のことがポロリ。
コレ、いかにも成式流記載。妃は西王母と言われていたりするが、中華経典ならいざしらず、インドの経典にあろう筈がない。"舍支/舍脂"である。帝釈天が略奪した修羅族王の娘と考えよという投げかけ。
(修羅族王は、仏教勢力みなされている帝釈天との戦争に踏み切ってしまう。当然ながら天界から外すしかなく、そのためにできたのが修羅界ですゾと教えてくれている訳だ。[…兜率天-夜摩天-帝釈天と32天-四天王-人間界-修羅界…])
つまり、帝釈天を始めとする仏教における"欲界"のヒエラルキーがどのように出来上がっているのか、チラリではあるが、その"見方"を教えてくれているのである。
成式の真骨頂。これゾまさしく"録異"以外のなにものでもなかろう。

その辺りを見てみよう。

一般には、帝釈天は、インド土着信仰の武勇神 Indra[因陀羅]を指すと言われている。よく見かけるのは、六牙白象のバラモン姿の騎座像。32候の軍勢をを従えた、修羅族との戦闘指揮官としての表象である。(軍は四種:象軍,馬軍,車軍,歩軍)もちろん、四天王の支援も得てのこと。僧侶ではあるものの、王として君臨し、修羅族との戦いで勝利し、インド社会の政治的安定を実現した大立者ということ。
結果、立派な御殿に住み、多数の女を侍らすことになり、神の座も射止めた訳である。

その勝利の表象は林。インドは聖樹信仰の帝国なのだろう。

我々がよく耳にするのは、それをよいことに、放逸ぶりが目立ち諌められたとの陳腐な逸話。腐敗しているなら、脅して反省させるしか手がなかろうというだけで、注目すべき点は何ひとつない。
皆が恐怖で顔がひきつるほど宮殿が振動したという。要するに、目連尊者は、恐れ入谷の鬼子母神。

時,天帝釋與五百女遊戲浴池,有諸天女,音聲美妙。
爾時,帝釋遙見尊者大目ノ連,
  :
天帝釋語尊者大目ノ連:
「我三十三天多著放逸樂,或憶先事,或時不憶。
世尊今在王舍城迦蘭陀竹園,尊者欲知我先界隔山中所問事者,今可往問世尊,如世尊説,汝當受持。然我此處有好堂觀,新成未久,可入觀看。」
  :
「觀此堂觀地好平正,其壁、柱、梁、重閣、、羅網、簾障,悉皆嚴好。」
  :
時,尊者大目ノ連作是念:
「今此帝釋極自放逸,著界神住,歎此堂觀,我當令彼心生厭離。」
即入三昧,以神通力,以一足指其堂觀,悉令震動。時,尊者大目ノ連即沒不現。
諸天女衆見此堂觀震掉動搖,顛沛恐怖,東西馳走,白帝釋言:
「此是尸迦大師,有此大功コ力耶?」

  「雜阿含經卷第十九」

これをどう解釈するのかは知らぬが、この程度のレベルの説話でインドの民を折伏可能と考えたのであろうか。

(Wiki以外からの引用) 般若流支訳[刊行會編]:「正法念處經」@大正新脩大藏經 大藏出版 1988
(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎 1」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.


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