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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2016.6.10 ■■■

六道の地獄

天、阿修羅、餓鬼、畜生とくれば、お次は、いよいよ、最底辺の地獄のお話。
悪行三昧の人間は、死ぬと、地獄へ落ちるゾと言われている。
しかし、俗世間こと俗界に属すのは、人間だけでなく、天人や畜生も。彼等も悪行が酷ければ、死んで地獄行の可能性が無いとはいえない訳である。
その辺りのお話。

まず、死に方。

 團生死諸天也。
 青出死地獄,
 黄出死餓鬼。
 赤業畜生。


六道であるから、人間以外が4つしかないのはおかしい。と言うことは、修羅は天人と同じようなものということだろう。天界にポジションを置けないので、餓鬼や畜生の類似扱いにしているということだろう。
もちろん、地獄にも住んでいることになっている訳で、それが閻魔大王ということだろう。扱いかねたと言うよりは、単純に善行悪行と決めつけるのが難しいことを意味していると考えるべきであろう。
悪行とは何かの絶対的基準が作れる訳もないから、その判断を誰かに委ねるしかないというの俗界の実情。

さて、その地獄だが、以下が一般的な記載のようだ。
<八熱地獄>
 活大/等活
・・・殺生
 黒縄・・・〃+偸盗
 合大/衆合/堆圧・・・〃+邪淫
 叫喚・・・〃+飲酒
 大叫喚・・・〃+妄語
 焦熱/炎熱・・・〃+邪見
 大焦熱/大炎熱・・・〃+犯持戒人
 阿鼻/無間・・・〃+父母阿羅漢殺害
<十六小地獄 (無間地獄)一例
 烏口,一切向地,無彼岸常受苦悩,野干吼,
 鉄野干食,黒肚,身洋,夢見畏,
 身洋受苦,雨山聚,閻婆度,星鬘,
 苦悩急,臭気覆,鉄,十一焔.
<八寒地獄>
 部陀,刺部陀,听陀,婆,鉢羅,鉢特摩,鉢特摩,摩訶鉢特摩.


一般と違う話をすると言っておきながら、ここは世間で言われている内容と何の違いも感じられない。せいぜいのところ、<八熱地獄>の焦熱地獄の"大"の方を欠くというだけ。
読者としては、ナンナンダとなる。
そこで、"実は、そうなんです"とわざわざ断り書き("多與常説同")。まさに、アッハッハである。

"録異"の面白さを追求している訳ではないのに、そんな体裁と言ったりするからそうなるのである。
そんなこと気にせずともよいと思うのだが。

成式の記載を並べておこう。

【活】地獄十六別處,下天五千年,此獄一晝夜。金剛蟲甕熱黄藍花心彌泥魚,排筒
【K繩】地獄,旃荼劇,畏鷲。
【處合】地獄,上中下苦銅汁河中身。洋如蘇鷲腹火入。割刳處,堅{革+卯}炎口,夜幹朱誅蟲、鐵蟻。涙火處,以去陀羅灰致眼中,_葛池黿
【號叫】地獄,發流火處,火末蟲處,四百四痛,火厚二百肘。
【大號叫】地獄,闊廣三居,口生確。蟲火鬢處,金舒迦色,肉泥色也。赤樹魚腹苦。
熱】地獄,十二炎處,火生十方及饑渇火也。針風生龍口中,彌泥魚。鍋量五十由旬,沸沫高半由旬。吹下三十六億由旬,塊烏處地盆蟲,置之鼓牛鼓出惡聲。千頭龍。
【阿鼻】十六別劇,衣裳健破浣而速垢,將生阿鼻之相。死時見身如八兒,面在下。空中風吹三千年受苦,勝如阿迦尼咤天樂。獄中臭氣能壞欲界六天,有出沒之二山遮之。烏口處,K肚處,一角二角處。
<八寒地獄>,多與常説同。
凡生地獄有三種形,罪輕作人形,其次畜形,極苦無形,如肉軒、肉屏等。


地獄での生活を考える場合、こうした恐ろし気な環境の何れに回されるかという以上に、どのような姿で責め苦を負うことになるかの方が衝撃的ですナとの一言がついている。ママの人の姿ではなく、畜生にされたりするし、挙句の果てには肉の塊だったり。コレ、まさに究極の脅し。

しかし、成式が触れたかったのは、文字情報ではなく、画像情報の方だろう。当時の寺院の数は半端なものではなく、壁画"地獄変"はポピュラーなものだったに違いないからだ。当然ながら、バリエーションも多かったと思われるが、上記の地獄概念だけは貫かれていたのであろう。
一方、それに付随する細かな地獄である"別處"は経典での定義で違いを知るしか手は無いということのようだ。

今佛寺中畫地獄變,唯隔子獄稍如經説,其苦具悉,圖人間者曾無一據。

ただ、一世風靡の"地獄変"の裏で、よく知られていた牛頭の獄卒が絵から排除されていったことも忘れない方がよい、と。無上な拷問的所業と言えば登場する姿だった訳で。
現世にも、そんな輩はそこここ存在するのはご存知の通り。

舊説地獄中蔭牛頭阿傍,無情業所感現。

よくわからないが、人が死んで地獄へ行く場合は、遺体の足が冷えているのだソウナ。
人漸死時,足後最冷,出地獄之相也。

地獄話は成式の社会学で〆。たった一言だが秀逸。
暴悪なことができるのも、社会構造が出来上がっているからで、これを失ってしまえば地獄的現象も消え失せる、と。

器世將壞,無生地獄者。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎 1」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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