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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2016.7.22 ■■■

白頭公

眼がついている冬瓜の話が収載されている。

ここだけ聞くと、えらく異なことに感じるが、仏教布教でそんな見方が生まれたとも言える。
言うまでもないが、仏教以前は大いに行われていた動物供犠が、突如廃止されることになったからだ。そうそう簡単に姿勢転換できぬ訳で、動物に替えて冬瓜を供えるようになったということ。従って、眼がある冬瓜なのである。
それに、転生を願って、遺骸へのお供えが増えたこともあろう。
この場合、問題は、熱帯や亜熱帯。果実だとすぐに腐敗し、臭気がただならなくなる。そこで長持ちする冬瓜を用いる事になる訳で、理に適っていると言えよう。

そんなことを考えると、この話の主題は冬瓜ではなく、【白頭公】と見るべきだろう。"公"とは、言葉の綾で、単なる白髪頭の翁という意味でしかないが。

冬瓜。
晉高衡
[343-388年]為魏郡太守,戍石頭[江蘇南京]
其孫雅之在廐中,有神來降,自稱【白頭公】,
杖光照一室。又有一物如冬瓜,眼遍其上也。

   [卷十 物異]
武人の孫が廐の中にいたら、【白頭公】が降臨。
杖が燦然と輝く。
冬瓜を持って来たが、そこには眼がついていた。


この出典は、少々、違う。・・・

晉太元中,高衡為魏郡太守,戍石頭。其孫雅之。在廐中。
云:
 「有神來降,自稱【白頭公】。
  杖光耀照屋。
  與雅之輕舉宵行,暮至京口,晨已來還。」
後雅之父子,為桓玄所滅。
出《幽明録》

   [太平広記 二九四 神四 高雅之]
武人の孫のところに、【白頭公】が現れる。
しばし、両者は、遠出したりして遊んだ。
その後、父ともども桓玄に滅ばされる。


【白頭公】登場とは、なにかよからぬことが起きる前兆現象なのであろう。
成式バージョンでは、結果の"悪しき事"の話は削除されている。
それは、次の話を踏まえているからかも。・・・

魏,桂陽太守江夏張遼,字叔高,去陵,家居,買田,田中有大樹,十餘圍,枝葉扶疏,蓋地數畝,不生穀。
遣客伐之。斧數下,有赤汁六七斗出,客驚怖,歸白叔高。
叔高大怒曰:
 「樹老汁赤,如何得怪?」
因自嚴行復之。
血大流灑。
叔高使先其枝,上有一空處,見【白頭公】,可長四五尺,突出,往赴叔高。
高以刀逆格之,如此,凡殺四五頭,並死。
左右皆驚怖伏地。
叔高神慮怡然如舊。
徐熟視,非人,非獸。
遂伐其木。此所謂木石之怪夔魍魎者乎?
應司空辟侍御史州刺史以二千石之尊,過郷里,薦祝祖考,白日衣榮羨,竟無他怪。

   [干寶:「捜神記」卷十八]
張遼が田のなかにある大樹を伐採しようとすると、赤色の汁が大量に流れ出たという。
【白頭公】出現。よくよくその姿を見れば、非人にて非獸。

さて、張遼、どうする。
伐採。
読者は、その後、どんな祟りありやと考えてしまう。
なにもなく、出世。

要するに、【白頭公】は、異変あるゾというお知らせ役でしかないということのようだ。
しっかりした姿勢で、対処していれば、なんということなし。
そういう観点で、もう一話。・・・

有一家姓陳,家百餘口,朝炊釜,不沸。舉甑看之,忽有一【白頭公】,從釜中出。
便詣師卜。
卜云:
「此大怪,應滅門。便歸,大作械,械成,使置門壁下,堅閉門,在内,有馬騎麾蓋來扣門者,慎勿應。」
乃歸,合手伐得百餘械,置門屋下。果有人至,呼。不應。
主帥大怒,令縁門入,從人窺門内,見大小械百餘,出門還説如此。
帥大惶,語左右云:
「教速來,不速來,遂無一人當去,何以解罪也?從此北行可八十里,有一百三口,取以當之。」
後十日,此家死亡都盡。此家亦姓陳云。

   [干寶:「捜神記」卷十七]
陳家での、とある朝餉。
どういうことか、釜の湯が沸かない。甑を覗くと、そこに【白頭公】。釜の中から出てきたのである。
こりゃ拙いセ、ということで占卜を頼む。
鬼界の馬騎が魂魄頂戴にやってくるから備えヨとのこと。
事前準備万端整える。
仰せの通り登場したが、家はそ知らぬ顔。鬼界の主帥、大いに怒る。
部下は家の様子を伺って、ココはえらく手強そうですゼと主帥にご報告。
皆、いなくなる。
10日もたったろうか、後日のこと。
(陳家はその後なにもなかったが、)
家の人達がことごとく死亡するという事件発生。
陳家と同姓だった。


書類に従って動く、官僚組織とはこんなもの。
成式先生、こちらを引用すべきか、迷ったに違いないが、焦点がぼけるので、止めたのでは。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎 4」東洋文庫/平凡 社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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