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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2016.8.8 ■■■

大輪の白百合と聖数13

解釈が難しいといっても、なんとなく感じるところがある話は少なくない。
そんな例をとりあげてみたい。と言うか、素人の作り話を書いてみた。

元和[806-820年]末,
海陵
[江蘇泰]夏危乙庭前生百合花,
 大於常數倍,異之。
因發其下,
得甓匣十三重,
各匣一鏡。
第七者光不蝕,照日光環一丈,
其余規銅而已。
 [卷六 器奇]

とある家の庭に百合の花が咲く。余りの超大輪で、まさに異変。

百合は北半球温帯でよく見かける植物だから、栽培していておかしくない。ただ、それが一般的だったかははっきりしない。食(薬)用か、観賞用なのかなんとも言い難いからである。
ともあれ、ユリの花には高雅純潔イメージができあがっており、「雲裳仙子」と呼ばれたりもする。それがいつの頃なのか気になるところ。中華帝国の花と言うより、西洋的な雰囲気を漂わせた植物だから。

ところで、この話のユリはどのような品種なのだろうか。

今様なら、薫りが強いものや、派手なタイプが好まれるだろう。・・・
 麝香百合/Easter lily[和名:鉄砲百合]
 天香百合/Japan lily[和名:山百合]
 王百合/Royal lily[和名:リーガルリリー]
唐代は、鱗茎を使う目的にあった品種を栽培していたとすれば、こちらか。・・・
 卷丹/Tiger lily[和名:鬼百合]
 渥丹/Star lily[和名:姫百合]
しかしながら、ここでの百合は花弁が白色の、なんということのない品種ではなかろうか。
 白百合/-[和名:博多百合]
 (日本百合/-[和名:笹百合]・・・日本的感覚のシンプルな品種。)

そんなことを考えながら、白百合の写真を眺めていて、フト気付く。

この話、845年の会昌の廃仏で弾圧され消滅した景教(現実主義的な思考と思われる、非国教の立場をとるネストリウス派)を暗示しているのではないか。
ペルシア人阿羅本によって、太宗朝の635年に長安に入り、かなり流行していたから、信者がそこここに残っていておかしくない。

つまり、弾圧に耐えて、花が咲き誇っていたと言っているだけのこと。

ただ、その根を掘り起こすと、瓦製の13重ねの函がでてきたというのが、わかりにくいところ。
なにせ、13という数字は、西洋では"忌み数"として扱われているからだ。
そうはいうものの、13函のうち、12には規定品が入っており、7番目だけが特製の素晴らしい鏡だったという点からみて、宗教的な意味が与えられているのは明らか。道教と習合した、異教ということだろう。

それに該当しそうなのは、景教しかあるまい。
しかし、もともと、ネストリウス派は異端としてキリスト教から排除されていたから、13の考え方も違っていたと見ることもできるのでは。
13に親近感を覚えていたとは言い難いが、民族的に迫害を受けて来たユダヤの表象たる「✡=△+▽」のダビデの星(Hexagram/六芒星)を彷彿させるから、同情的だったかも知れぬ。部族の統合は一神教をおいて他はなしという表象として転用することもできる訳で、12支に主神という構造にしていた可能性も。
__●      "●:12部族 + ○:一神"
●●●●
_●○●
●●●●
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信仰は消せぬという寓話臭紛々とは言えまいか。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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