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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2016.8.20 ■■■

割れた玉精碗

収載意図が全く読めない話を取り上げてみよう。

篇は、「卷九 盜」。登場人物は、まことに少なく、侍中の馬、馬家下僕の小児の奴、その他大勢の奴婢だけ。
しかも、その小奴が、馬が大切にしているお宝を壊しただけの単純なストーリー。

従って、盗みに関する話は一切入っていない。

そうなると、馬のお宝、"道教の玉器的な碗"が盗品か。玉製の碗は超高価な上、そうそう市場に出回るような代物でもなかったろうし。ソグド人から特別価格で譲りうけるか、強奪か盗み位しか入手ルートはなさそうと踏んでのこと。
マ、想像でしかないが。

それでは、本文を見ておこう。・・・

馬侍中嘗寶一玉精碗,
夏蠅不近,盛水經月,不腐不耗。或目痛,含之立愈。
嘗匣於臥内,有小奴七八,偸弄墜破焉。
時馬出未歸,左右驚懼,忽失小奴。
馬知之大怒,鞭左右數百,將殺小奴。
三日尋之,不獲。
有婢晨治地,見紫衣帶垂於寢床下,視之乃小奴蹶張其床而負焉,不食三日而力不衰。
馬睹之大駭,曰:
 「破吾碗乃細過也。」
即令左右殺之。

侍中の馬には宝があった。玉の精髄製の碗である。
(不思議な力がある碗なのである。)
  夏になっても蠅が近づかない。
  水を盛っておくと、月を経ても、腐らず消耗もしない。
  あるいは、目痛の時に、これを含むとすぐに治癒。
寝室で箱に入れて保管していた。
七〜八歳の小奴がいたが、ある時、その宝物を持て弄んでいて、墜して壊してしまった。
丁度、馬が出かけていて、まだ帰ってこなかった時だったが、左右の奴婢達はただただ驚き懼れる状況に。
そうこうするうちに、その小奴は失踪。
帰宅した馬はことの次第を知ると激怒。左右の奴婢達を鞭打つこと数百回にのぼった。小奴など、まさに殺すつもりに。
ところが、三日間、小奴を尋ね回っても見つからず。
四日目の明け方になり、婢が、土間を清掃していて、寝床から下に、紫色の衣帯が垂れているのを見つけた。よくよく見ると、なんと、あの小奴が、寝床の下で四つんばい。その背中で寝床を背負っていたのだった。三日間食べずにいたのに、その力は衰えなかったのだ。
馬はこれを観て大いに懼れた。
そして、
 「吾が碗を破損させた。
  ただ、それは些細な過誤でしかない。」と。
そして、左右の奴婢達に、即刻、小奴を撲殺させた。


腑に落ちぬのは、落とせば壊れること確実な碗を小児が弄り回すのを、下僕達が止めようとしなかった点。
しかも、壊れれば、恐ろしい"罰"が待っていることを、知っていたのに。
馬は残虐な性格だった可能性もあろう。
と、すれば、超人的な力を発揮する小児だから、誰も手をつけようとしなかったということかも。
さすれば、手が滑って碗が墜ちて壊れたのではなく、故意に落として割った可能性もあろう。その小児は、その宝物は馬が強奪して入手したものと見破ったのかも知れない。

だからこそ、馬は、いざ、小児を捕まえた段になって、碗を壊した罪はたいした問題ではないと言いだしたりしたのではないか。
しかし、そのことは、悪事が露見するのではないかという気分が生まれた訳で、即刻、殺さねばとなるのは必定。
マ、すべては藪のなか。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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