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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2016.8.24 ■■■

然という二字熟語を取り上げてみたい。
そのためのお話ではないかと思われるような奇譚が収録されているからである。・・・

崔玄亮常侍在洛中,
常歩沙岸,得一石子,大如卵,K潤可愛,玩之。
行一裏余,
而破,有鳥大如巧婦飛去。   [巻四 物革]
(成式の父とほぼ同時期に入台した、白楽天のお仲間である、)
崔玄亮が常侍職の御史として洛陽にいた時のこと。
よく散歩に渉っていた、砂利地の川岸で石ころを拾った。
鶏の卵くらいの大きさで、色は黒。しっとりとした湿り気を感じさせ、可愛いので、手で弄んでいた。
そうこうするうち、一里余歩いただろうか。
突然にして、その石ころがボキッと割れたのである。
そして、大きな鳥がそこから飛び出し、去っていった。
その鳥は、巧婦鳥
[=鷦鷯/Eurasian Wren/三十三才(みそさざい) ]に似ていた。

検索するとすぐにわかるが、という文字は爆発的というほどではないが、えらく人気があることがわかる。
中身を読んでいないので、何故に、そこまで気になるのかはわからぬが想像はつく。

"石"部の文字で、が充てられているが、"皮骨相離的聲音"をあらわすという。象声文字ということ。・・・ちなみに、日本語での発音は、呉音:カク、漢音:キャク、慣用音:ケキ。訓は無い。
大陸では、官語:huò、広東語: waak。尚、中古漢語はhwek̚。最後のk音が無声の破裂音である点が重要なのであろう。閉じた呼気を一気に開放するのだから、突如生まれる相離感覚に合っていそう。そうだとすれば、甲高い発声が基本だと思う。

ともあれ、「骨と皮が離れるときの音」というのだから、それは一体全体どういう音なのか気にはなる。
唐代は、その辺りはどうだったのだろうか。ネットで調べてわかるようなものではささそうだが。

もっとも、知られていない文字という訳ではないようだ。
「大辞林」の用例に、夏目漱石の「薤露行」@青空文庫の文章が引かれているからだ。
 と故なきに響を起して
 白き筋の横縦に鏡に浮くとき、
 その人末期の覚悟せよ。

昔のインテリなら常識的に知っておくべき熟語だったということになろうか。残念ながら、小生には、この文章を読んでも、音の印象はつかめない。

古書の、骨と皮が離れる情景の用例を見ると、達人が解体する時の極めて素早い動きで発生する音らしいことがわかる。ただ、それ以上でもなければ、それ以下でもないが。
庖丁為文惠君解牛,
手之所觸,肩之所倚,足之所履,膝之所
嚮然,奏刀然 ,莫不中音。
合於桑林之舞,乃中經首之會。
  [「莊子」内篇養生主第三]

冒頭の「酉陽雑俎」記載の情景からすれば、鳥が突然にバッと飛び立つ音の気がする。牛の解体は見たことがないが、感覚的にはベリバリといった語感が合っていそう。しかし、そのように飛び立つなら大型でないと。小石から突如出現するなら、飛び立つにあたって一声。その声を指すと考えるのが自然。

マ、この程度の思考で我慢するのが無難か。

尚、その飛び立った鳥に似ているとされる"巧婦鳥"は、葦原で巧みに巣を作るから命名されたとか。
雀より、体は小さい。
しかし、声は圧倒的に大きいとしたいところだ。小生の趣味的感覚だと、その鳴き声は"ヨシヨシ"が望ましいが、全く違う。
   「ミソサザイの鳴き声」
     (日本でいちばん小さな野鳥の鳴き声です)by kanamejie @YouTube

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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