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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2016.8.27 ■■■

川端康成採用譚

武侠小説をとりあげているので、川端康成の"劍傳(段成式 著)"[「川端康成全集」第35巻雑纂2]についても語っておく必要があろう。
ここには、"崑崙奴"と"聶隱娘"の2話が収録されている。(「剣侠伝」巻三と巻二に所収@楊倫:「剣侠伝校証」中州古籍 2012年の目次)

この話の主人公は、南方渡来のK人奴・養妓と藩鎮割據のなかでの女刺客であり、当時の雰囲気からすれば、人気キャラクター的様相。
ストーリーもよくまとまっている。
それだけに、「酉陽雑俎」のセンスとかなり違う印象のお話だナとなる。要するに、様々なモチーフを寄せ集め、上手に構成した作品に映るということ。いかにも、"大衆的"娯楽性を徹底追求して仕上げた感じ。

成式の好みは、その手の豊富化ではなく、エスプリ感覚を生み出すためのスリム化と見れば、余りに対照的な作風と言えよう。
なにせ、成式先生は、読者に対して、意味は勝手に読み取れと投げつける態度そのもの。従って、この手の読み易いお話作りはお嫌いな筈。

換言すれば、短文で単純な筋にすることで、威力を増そうという手法を駆使していることになる。と言っても、ストーリー性が必要だと、長文にならざるを得ないが、内容的には一行短文モノとたいして変わらない。従って、雑炊的な作品にはならないのが特徴と言えよう。もちろん、それだけでは単調すぎてちっとも面白くないから、薬味的な文章を入れ込むのである。
これが難しさを生む訳である。

そのように考えると、"崑崙奴(傳)"@「太平廣記」と"(刺客)聶隱娘"@「裴傳奇」は「酉陽雑俎」に所収されていなかった可能性が高い。
(清代〜民国期の出版物としては、段成式著とする方が、マーケテイング上の効果が期待できるということではないか。もちろん、「剣侠伝」には、「酉陽雑俎」から収載した異譚["僧侠","京西店老人","蘭陵老人","盧生"]もある。並んでいる作品には、唐代の孫光憲:「北夢瑣言」["荊十三娘","許寂","丁秀才"]康駢:「劇談録」["潘将軍"]が含まれている。)
実際、この2話の作者は成都節度副使[878年頃]や靜海軍節度使だったことがある、裴とされている。「酉陽雑俎」のコピー作品との説も無いようだ。年代から考えて、逆も有り得ぬ。

折角だから、「剣侠伝」中の、呉淑:「江淮異人録」出自とされる"李勝"@巻三の話をご紹介しておこう。
どの程度有名な話かは知らぬが、武侠故事を集めた「三十三剣客圖」第二十二圖には「殺之不武,矧使知懼」と書かれている。以下、剣術話の枕の部分。(ここだけなら、書籍名にひねりを入れれば、いかにも使えそうなストーリーである。)・・・

書生李勝,嘗游洪洲西山中。
与處士盧齊及同人五六輩雪夜共飲。
座中一人偶言:
 「雪勢如此,因不可出門也。」
勝曰:
 「欲何之?吾能住。」
人因曰:
 「吾有書籍在星子,君能書我取乎?」
勝曰:
 「可。」
乃出門去,飲未散,携書而至,星子至西山凡三百余里也。

西山/洪崖山は洪州[江西南昌の西南]にある風景美麗な道教の聖地[=第38福地:逍遙山]
読書三昧たる書生の李勝もそこに遊びにいくことにした。
処士の盧齊に同行したのだが、一行はお仲間の5〜6人。
雪夜となり、飲み会に。
座中の一人が、たまたまだが、言い出した。
 「こんな勢いで雪が降ると、今宵は門から出られないナ。」
すると、李勝は、
 「どこか行きたい処があるのですか。
  それなら、私が往ってきますが。」と。
盧齊だったか、一人がそれに応えて、
 「ワシ、書籍を星子に置きっぱなしにしてきた。
  貴君、ワシのためにその書を取って来てはくれまいか。」と。
李勝は、
 「お安い御用。」と。
門から出て消えて行った。
そして、宴席が散会となる前に、李勝は書を携えて戻ってきた。
星子
[江西九江廬山]の地は、西山から、おおよそ300余里ある。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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