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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2016.8.29 ■■■

酒杯藤

どんな種なのか、さっぱりわからぬ植物名がある。・・・
酒杯藤,大如臂,花堅可酌酒,實大如指,食之消酒。 [卷十八 廣動植之三 木篇]

これだけでは、なんのことやら。
出典をママで引用しておこう。[晋 崔豹:「古今注」卷下 草木第六]
酒杯藤,出 西域,
藤大如臂,葉似葛,花、実如梧桐,
実花堅,皆可以酌酒,
自有文章,暎徹可愛。
実大如指,味如豆,香美消酒,
土人提酒来至藤下,摘花酌酒,
仍以実銷酲。
國人寳之,不傳中土。
出 大宛 得之。事出張《出關誌》。

"酒杯藤"なる西域出自の植物あり。
人の腕ほどの太さの藤であり、蔦系の形状の葉をつける。
花も実も梧桐
[アオギリ]に類似。
実が成り始めると花弁が堅くなるので、花を盃代わりにして皆で酒を酌み交わす。
 :
実の大きさは指の程度で、その味は
[ニクズク/Nutmeg]に似ており、香り高く美味しい。
土着の人々は、酒を携えてこの藤の下に集まって来て、花を摘んで酒盛りをする。
その時に、実を摂ると悪酔いを醒ますそうだ。
 :


観察結果以外は省略した。この国での人々は宝物にしているので、中国には伝えなかったとの最後のパラグラフ記載の件は信用しがたいからだ。
が登場すれば尚更。
国際化推進(敦煌道,永昌道,交廣道)の旗頭であり、大月氏と烏孫との軍事同盟締結により匈奴を討って、西域ルート確保に注力した人物である。その結果、大宛,大夏,康居といった国々との交易が盛んになった訳である。この頃に"胡"農産品が伝来したと見てよかろう。[胡瓜,胡桃,胡麻,胡豆,胡蒜,胡]
ただ、中華帝国の体質として、持ち出し厳禁を遵守する訳もなく、そんな扱いの"酒杯藤"も伝来したに違いない。移植が難しいか、中原の気候に合わず育たなかったにすぎまい。

尚、蔓性の梧桐類木本としては、"粗毛刺果藤"があげられるが、実に棘があり記述にはあわない。
Nutmeg的な実ということから、アルカロイドが含まれていると見てよかろう。人体にはなはだ危険な物質だが、酔いが覚めた気になるのだろう。
顕著な薬効があるなら、なんとしても、その実を入手する筈で、漢方にその名が残っていないところを見ると、副作用問題があったのかも。
ちなみに、中華的発想だと、黄色系漢方薬が二日酔いに効くとされるようだ。[陳皮(蜜柑の皮),鬱金,黄連,黄柏]

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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