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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2016.9.7 ■■■

蕪が蓮に

卵菌系[鞭毛菌類の一種]に属す露黴の仲間に"白銹菌/White rust"と呼ばれ、十字花植物[アブラナ類]や菊に寄生し、葉や花を台無しにさせる菌がある。わざわざ、生物学的分類名をつけたのは、所謂「さび病」はよく知られており、たまたま白色になったものを峻別しただけと考えがちだから。
一般的な方は、銹菌[担子菌類に帰属]であり、多くの場合は柄生銹菌らしい。色も褐色の「さび」色のことが多い。
要するに、見かけは同じ「さび」だが、全く異なる菌なのである。
言うまでもないが、こんな情報が飛び交うのは、蔬菜や花卉農業にとっては死活的な問題だからである。

・・・ということを踏まえて、以下、お読み頂きたく。

(芝)や茸に結構詳しそうな成式のことだから、当然ながら、植物の病気についてもなにか書くだろうと思って眺めてみると案の定。

繰り返しになるので恐縮だが、「酉陽雑俎」は、博物学的叙述を嫌っている書である。従って、珍しい生物だから触れておこうという訳ではない。
何故に、それを珍しいと感じるのか考えさせる題材のみ採択していると見て間違いない。要するに、世の中のヘンテコな発想に縛られていることに気付かさせようとの目論見に合う話だけが収録されているのである。
従って、創造力あるいは、想像力を発揮しないと読んでもナニガナニヤラで終わる。

そんな一例がコレ。菌の話。
しかし、菌と気付く人は例外的。園芸あるいは、菌類に興味を持つ人だけだろう。
「酉陽雑俎」は怪奇譚の書だと言われているし、又、訳のわからぬトンデモ話をどこからか仕入れてきただけとして、通り過ぎてしまうのがオチ。
そんな読み方をしていては、この本の価値はゼロなのである。

と言っても、僅か、一行の記載。それこそが凄さでもある。・・・

州僧清簡,家園蔓菁[=蕪],忽變為蓮。  [卷四 物革]

常識で考えればわかるが、蕪が忽ちにして蓮になるなどあり得まい。
寺の自家菜園で病気蔓延の図を示しているに違いないのである。

蕪でよく罹患する病原菌は銹菌。八百屋でも、時に、葉にその症状が見られるものがあるから、言われて見れば、ア〜あれかとなろう。
しかし、その症状から蓮の葉を想起するなどあり得ない。

それが白銹菌となると別だ。
葉にはフクレが発生するし、酷くなれば茎もそうなるから葉全体の印象が変わってしまう。葉は立っていられず、横に拡がってしまい、全体が緑地の上に白粉を撒いた如くになる筈だ。
そうなれば、小型とはいえ、蓮に似ていると感じてもおかしくない。

佛僧としては、アンタの態度が悪いから、その祟りで蕪が全滅と言われたのでたまったものではない。そこで考えた結果、奇譚話でいくことにしただけ。佛の御心で、畑のすべての蕪が、一面の蓮地になった、と。

そんなことを100%知っておきながら、これは異なコトですゾと取り上げたのである。

勿論のこと、サロンでは大笑いである。
ただ、その笑いは暖かい。布施にたよらず、生産活動を始めていることは、祝福されて当然と見ているからである。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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