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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2016.9.8 ■■■

釜中出現の妖怪

先ずは原文。・・・

【甑花】
滕景真在廣州七層寺,元徽中,罷職歸家,婢炊,釜中忽有聲如雷,米上隆起。
滕就視,聲轉壯,甑上花生數十,漸長似蓮花,色赤,有光似金,俄頃萎滅。
旬日,滕得病卒。
  [卷十 物異]

廣州七層寺とは、"未有羊城、先有光孝"のことだろうか。最盛期には食僧万人と言われた巨大な寺である。
古刹だが、寺名は時代とともに変わるので、象徴的な建造物で呼んだのでは。・・・慧能が676年に僧侶になった(受戒)寺ということで、ここには、四角七層の鉄塔が現存している。但し、五代十国時代の建立と、成式よりだいぶ後。しかしながら、慧能の髪塔が存在していた筈で、現存塔はそのリニューアル版の可能性が高かろう。七層が踏襲されたということ。

それはそれとして、よくわからぬ妖怪である。
ただ、釜鳴り現象は時として発生することはある。蒸気吹き出しで振動が始まり、共鳴するととてつもなく大きな音が出ることが予想されるからだ。
そんな現象に、幻想を感じ取ってしまったとなると、将来不安からくる心の病にとりつかれていた可能性があろう。
禅寺に入っても救い出すことはできなかったということ。

同一とは言い難いが、参考に、日本の妖怪に触れておこう。

鳥山石燕:「百器徒然袋」@1784年には、釜頭の妖怪の絵がある。
台所で釜を被った毛だらけの妖怪が絵馬を掲げ、竈の前で跪いているのだ。以下の説明文がついている。
    鳴釜
  白澤避怪圖曰
  飯甑作声鬼名
  斂女有此怪則
  呼鬼名其怪忽
  自滅
  夢のうちに
    おもひぬ

漢籍「白澤避怪図」に描かれている、釜を鳴らす妖怪"斂女"の図の記載によれば、妖怪なので、本名呼ばれ、名前を知られたことがわかると、力を消失する。あくまでも、夢の中でのことだが。

要するに、台所に現れる妖怪からの祟りを避けるためのアドバイスである。この絵本をお買い求め頂ければ、厄除けになるヨ、ということ。

その「白澤避怪図」だが、出自年代ともに不詳という代物。一応、怪の祟りを避ける方法を、白澤が黄帝に教授した内容を収載したことになっている。その白澤だが、白楽天によれば、獏の俗称である。
   「貘犀賛序」 白居易
 貘者、象鼻、犀目、牛尾、虎足、
 生南方山谷中。
 寝其皮避瀑、図其形避邪。
 今俗謂之白澤。


出自不明な書とはいうものの、敦煌からも出土しており、六朝時代の作品である可能性が高い。つまり、その時代に、すでに妖怪譚はいたる所に広まっていたのである。
その後、王朝毎にご都合主義的な改変が加えられただろうが、妖怪そのものに対する興味はずっと続いていたということになろう。

ただ、唐代に、かなり変質したのではないか。道教が国教化し、仏教が排斥されたからだ。
天子と官僚は、道教を通じて"妖怪"までも統括すべく動いた筈。主要な妖怪は、すべからく道教のヒエラルキーに組み込まれ、避妖は道教的方術の一部と化したのは間違いなかろう。

成式が、妖怪を紹介しているのは、そのようなヒエラルキーの馬鹿馬鹿しさ批判でもあろう。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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