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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2016.9.16 ■■■

龜子文手水鉢

とても、"龜子文手水鉢"をとりあげているようには思えない話をとりあげてみたい。・・・

楚州[@江蘇淮安]界有小山,山上有室而無水。
僧智一掘井,深三丈遇石。
鑿石穴及土,又深五十尺,得一玉,長尺二,闊四尺,赤如榴花,毎面有六龜子,紫色可愛,中若可貯水状。
僧偶撃一角視之,遂瀝血,半月日方止。

  [卷十 物異]

井戸を掘っていたところ、仏前で口をすすぎ、身を清めるための水器である石製の手水鉢[ちょうずばち]が出てきたとの話に過ぎぬ。

その鉢だが、素材になかなか風格があって、榴花色の名石として通用する品質。マ、玉とみなしてもかまうまい。
日本だと、手水という言葉を使うと、神社の御手洗場感覚が生まれるので、ついつい茶道の"蹲踞[つくばい]"的な落ち着いた雰囲気の用品を想起してしまうが、発祥元は同じでも、仏教礼拝用は趣が違うのである。

ただ、ここでの手水鉢は、五輪塔水輪の石が転用された可能性が高い。本来的には、手水鉢は銅洗たるべしと思うが、止む無くその代用にされたのである。

要するに、もともとあった塔は破壊され、石は手水鉢になったということ。さらに、それも奪われそうになったから、地中深く埋められたという経緯をたどったことが想起される訳だ。
毛沢東の文化大革命のような、歴史ある宗教施設の壊滅を図った、血みどろの動きがあったということ。埋葬して隠すのは、信徒達が出来得る精一杯の対処策。従って、後世の信徒に、そんな埋葬物が"可愛"く映らない筈がなかろう。

何故に"龜子"だが、後代の文章が参考になるかも。
  「舍銅龜子文」 蘇軾[1037-1101年]
蘇州[@江蘇]報恩寺重造古塔,諸公皆舍所藏舍利。予無舍利可舍,獨舍盛舍利者,敬為四恩三有舍之。故人王頤為武功宰,長安有修古塔者,發舊葬,得之以遺予,予以藏私印。成壞者有形之所不免,而以藏舍利則可以久存,藏私印或以速壞。貴舍利而賤私印,樂久存而悲速壞,物豈有是哉。予其並舍之。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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