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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2016.9.17 ■■■

害鳥か益鳥か

【異鳥】との表題がついているので、トンデモない妖鳥の類かと思ってしまうが、実はどうということもない話。
しかし、現代にも通じるような、なかなか高度なものの見方を提起しているともいえる。

俗っぽい見方しかできないのだから、鳥の生態など理解できる訳がなかろう。従って、自然環境がどのようなバランスで成り立っているのかなど、誰もわからんのだヨと注意を喚起しているようなモノ。
成式先生流石。

【異鳥】,
天寶二年
[743年],平盧有紫蟲食禾苗。
 時東北有赤頭鳥,群飛食之。
開元二十三年
[735年],楡關有蟲,延入平州界,
 亦有群雀食之。
又開元
[713-741年]中,具州蝗蟲食禾,
 有大白鳥數千,小白鳥數萬,盡食其蟲。

  [巻十六 羽篇]
穀類の苗を食う"紫蟲[象虫幼虫?]"が平盧[@遼寧朝陽]に出現。743年のこと。
丁度その時、東北に"赤頭鳥
[丹頂鶴?]"がいた。群れをなして飛来し、その虫を食べてくれた。
楡関
[=山海関@河北秦皇島]で"[黏虫/夜盗虫]"が発生。こちらは、735年のこと。この虫、州境を越え、平州[@河北盧竜]にまで広がった。
すると、同じように、雀の群れがやって来て、その虫を食べてくれた。
もう少し前のことだが、具州で"蝗蟲
[イナゴ]"が穀物を襲った。すかさず、大白鳥数千、小白鳥数万が現れて、その虫を食べ尽くしてくれた。

食虫性の鳥は、害虫駆除に大いに役立つことがあり、「益鳥」と呼ばれたりする。燕、椋鳥、四十雀などはその手の扱いがされることが多いが、そう簡単に決め難い鳥も少なくない。
雀など典型。春〜夏の繁殖期には穀物の害虫を大量に食べるから、本質的には益鳥なのだが、その活動はほとんど知られていない。ところが、秋の実りの時期になると穀類を食するようになる。こちらは矢鱈と目立つので、害鳥そのものに映る。

鶴系の鳥は、もともと沼地や平原に群棲しており、見かけは魚食鳥である。魚を養殖していたりすると、憎々しい害鳥と見なされる。根っ切り虫を食べることは、遠目にはよくわからないから、知識がないと益鳥とされない可能性が高い。

白鳥は、藻や水草を食べている姿をよく見かけるので、植物食性と見られている。当然ながら、餌が不足すれば、イネ科の根も食べる。稲作地帯を狙って渡来するのだから、本来は穀類を食べたいのだろうがそれは危険なので避けているにすぎまい。なにせ、よく知られるように、餌付けはもっぱら米なのだから。
従って、益鳥とは言い難かろう。
ただ、白鳥は、イナゴは流石に食べないだろうから、ここで指摘している鳥とは違うと思われる。
さすれば、ここでの白鳥とは、虫食である鷺の仲間と見てよかろう。鷺達は、コンバインの稲刈りが始まると必ず傍に寄ってくるようだし、小さな虫は大好物の筈。獲り易いなら、魚食より虫食の方を優先するに違いない。
今は、白鷺といえば、ほんの小集団しか見かけないが、その昔は、大集団を作れたのであろう。

要するに、【異鳥】とは、害鳥と見なされているのに、益鳥として活動してくれたことを指しているにすぎない。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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