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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2016.9.21 ■■■

竈君

道教における竈神は、もっぱら厨房と飲食に関係しているようで、「司命真君」とも呼ばれる男性神。

しかし、もともとは女性神で、食物とは直接関係ない火の神が発祥だと思われる。
(もっとも、火神は炎帝の子孫たる、"祝融"とされている訳だが。)

竈有髻。
【司馬彪 註】髻竈神,著赤衣,状如美女。
  [「荘子」達生第十九]

その後、「崑崙老母」的扱いとなり、道教的官僚ヒエラルキーに組み込まれ、天に家の悪行を逐一報告する職掌を与えられたようである。
月晦之夜,竈神亦上天白人罪状 。
大者奪紀。紀者,三百日也。小者奪算。算者,三日也。

  [葛洪[283-363年]:「抱朴子」卷六微旨]

その一方で、祠竈と不老不死を結び付けたりもしたようである。
其明年,齊人少翁以鬼神方見上。上(漢武帝)有所幸王夫人,夫人卒,少翁以方術蓋夜致王夫人及竈鬼之貌云,天子自帷中望見焉。
  [「史記」孝武本紀]

「酉陽雑俎」では、竈神の名前は男性的な"張單"と記載されているが、美女的存在とも。
それでありながら、耕作の神名のような"壤子"とも呼ばれるとしている。
竈神がご都合に合わせ、色々と変質させられて来た、と指摘するか如くに。・・・

竈神名隗,状如美女。
又姓張名單,字子郭。
夫人字卿忌,有六女,皆名察洽。
常以月晦日上天白人罪状,大者奪紀,紀三百日,小者奪算,算一百日。故為天帝督使,下為地精。己醜日,日出卯時上天,禺中下行署,此日祭得福。其屬神有天帝嬌孫、天帝大夫、天帝都尉、天帝長兄、y上童子、突上紫宮君、太和君、玉池夫人等。
一曰竈神名壤子也。

  [卷十四 諾皋記上]

ついつい、そんな見方をしてしまうのは、竈神の出自について示唆を与える話を別途収録しているからだ。
考え抜かれて編纂された書であることがわかる。・・・

竈無故自濕潤者,赤蝦蟆名鉤註居之,去則止。
  [卷十一 廣知]
竈が、故無く、ひとりでに湿潤状態にある時は、
赤の蝦蟆
[ヒキガエル]が居るから。
その名前は"鉤註"とされる。
去ってくれれば、そんな現象は消え失せる。


何故に、竈が湿るのか訳のわからぬ記述になっている。両生類は水無しには生きられないから、状況として間違っている訳ではないが、"火"に近づく理由が考えられぬからだ。
女神であったことを考えると、水棲動物は出産の表象かも知れぬ。(古事記からの類推でしかないが。)超古層の信仰で、湿っているのは産土で、赤は血。そして、"迎え火"あってこその穢れなき貴子誕生ということ。
マ、素人の推定にすぎぬが。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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