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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2016.9.30 ■■■

長須國

「酉陽雑俎」所収のなかで、比較的長いのが、朝鮮半島の蝦王のお話。[卷十四諾皋記上]

ただストーリーは単純である。・・・

【1】
大定初,有士人隨新羅使,
風吹至一處,人皆長須,語與唐言通,號長須國。
人物茂盛,棟宇衣冠,稍異中國,地曰扶桑洲。

大定との年代表記だが、隋朝発足直前の鮮卑系北周の581年だろうか。[南朝 後梁は小国すぎるが同一元号あり:555-562年]
但し、周は中原の国であり、東北部につながる地域は支配していない。朝鮮半島での状況だが、北は高句麗[B.C.37-668年]、南西は百済[346-660年:山東から渡海の唐遠征軍により滅亡]、南東が新羅[356-935年]の3国である。
新羅と、どのような国交を指したのだろうか。

一般的には、扶桑洲は、太陽が出る扶桑の樹が生えている東海中の島とされる。梁書では、大陸からその距離2万余里。この数字を、どの程度の距離と見込むかにもよるが、日本を指していると考えるのが自然。
そうなると、百済か、その近隣で、日本とつながりがある地域では、扶桑洲と呼んでいたということか。
成式は朝鮮半島南部は、民族出自的には満州の高句麗祖(蝦夷)だが、言語や基層文化は倭人(東夷)に近いと見ていたのでは。

朝鮮半島の国家は、統治形態にしても、中華帝国のもの真似に徹していた筈で、上流階級の様子は中原とそう大きな違いはなくて当然だろう。
ただ、儒教国家だろうから老人重視が目立つ訳で、髭だらけだったか。そのため、長須國と呼ばれたと思われる。

【2】
其署官品,有正長、波、目役,島邏等號。士人歴謁數處,其國皆敬之。
忽一日,有車馬數十,言大王召客。行兩日方至三大城,甲士守門焉。使者導士人入伏謁,殿宇高敞,儀衛如王者。見士人拜伏,小起,乃拜士人為司風長,兼附馬。其主甚美,有須數十根。士人威勢赫,富有珠玉,然毎歸見其妻則不ス。
其王多月滿夜則大會,後遇會,士人見姫嬪悉有須,因賦詩曰:
 “花無蕊不妍,女無須亦醜。丈人試遣總無,未必不如總有。”
王大笑曰:
 “馬竟未能忘情於小女頤頷間乎?”

本国の王朝が消滅したのであろうか。
士人は、新羅使節として入国したにもかかわらず、そのまま居ついてしまう。
なにせ、こちらの宮廷に正式に迎えられ、盛大な歓待を受けたのだから。
もちろん、結婚に踏みきり、この地の人となった訳である。

【3】
經十余年,士人有一兒二女。忽一日,其君臣憂感,士人怪問之,王泣曰:
 “吾國有難,禍在旦夕,非馬不能救。”
士人驚曰:
 “難可弭,性命不敢辭也。”
王乃令具舟,命兩使隨士人,謂曰:
 “煩馬一謁海龍王,但言東海第三第十島長須國有難求救。我國絶微,須再三言之。”

それから十年以上たった。
突然、国王が、悲嘆にくれる。
滅亡に繋がる大難に直面しているというのだ。
それなら、命を賭して、救うと。

【4】
因涕泣執手而別。
士人登舟,瞬息至岸。
岸沙悉七寶,人皆衣冠長大。士人乃前,求謁龍王。
龍宮状如佛寺所圖天宮,光明激,目不能視。
龍王降階迎士人,齊級升殿。
訪其來意,士人具説,龍王即令速勘。
良久,一人自外白曰:
 “境内並無此國。”
其人復哀祈,言長須國在東海第三第七島。
龍王復叱使者:
 “細尋勘速報。”

ということで、国を救うため、
決死の覚悟で、龍王のもとへ。
謁見はかなうものの、
龍王は、そんな国など知らんゾ、と。
ま、調べてあげようということに。

【5】
經食頃,使者返,曰:
 “此島蝦合供大王此月食料,前日已追到。”
龍王笑曰:
 “客固為蝦所魅耳。吾雖為王,所食皆稟天符,不得妄食。今為客減食。”
乃令引客視之,見鐵鍋數十如屋,滿中是蝦。有五六頭色赤,大如臂,見客跳躍,似求救状。
引者曰:
 “此蝦王也。”
士人不覺悲泣,龍王命放蝦王一鍋,令二使送客歸中國。一夕,至登州。回顧二使,乃巨龍也。

その結果がわかり、龍王は告げる。
もちろん、苦笑気味で。
イヤー、どうも海老を食べ過ぎたようだ。
あんたの国の王とは蝦王ということサ、と。
そして、鍋に入れられて食べられる直前だった立派な蝦を逃がしてくれたのである。

ついでながら、朝鮮半島の状況。
新羅はもともと高句麗から独立した国。百済や倭国との摩擦もあり、常に、地政学的に難しい状況にあった。564年には北斉、568年には南朝 陳に朝貢。隋、唐も建国後すぐに冊封国化をはかった。唐は、660年に百済、668年には高句麗を滅亡させ、半島南部は新羅の支配下に。
尚、国家滅亡後、百済王の一族は唐の皇族として処遇されたようである。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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