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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2016.10.14 ■■■

郭震の詞

郭代公こと郭震[字は元振:656-713年]が山居していた時の話が収載されている。(対吐蕃-突厥での武功があり、宰相も務めた。)

即位したばかりの玄宗を怒らせて罷免され新州@広東に流された頃のことだろう。(すぐに罪は軽減されたが、その赴任途中で死亡。)
以下の詩がよく知られているので、素人的解釈で眺めておこう。

 「古劍篇」 郭震君不見昆吾鐵冶飛炎煙,紅光紫氣赫然。
良工鍛煉凡幾年,鑄得寶劍名龍泉。
龍泉顏色如霜雪,良工咨嗟嘆奇絶。
琉璃玉匣吐蓮花,錯鏤金環映明月。
正逢天下無風塵,幸得周防君子身。
精光黯黯青蛇色,文章片片碕摎リ。
非直結交遊子,亦曾親近英雄人。
何言中路遭棄捐,零落漂淪古獄邊。
雖復塵埋無所用,猶能夜夜氣沖天。

君は見てはいまい。昆吾山での製鉄現場を。炎煙が飛び交い、紅光の炎と紫煙で赫然としている地だ。
良工が幾年もかけて製錬鍛造する。鋳造宝剣の名前は龍泉。
龍泉の表面は霜雪如き色。良工はそれを褒め称え、奇にして絶なりと感歎す。
琉璃玉の匣には蓮花が咲き、嵌入された金環には、明月が映えている。
正に、天下から戦塵が消え去り、幸いにも、何事も無き君子の身を取得せり。
精光は黯黯にして青蛇色。紋章は片片とした緑亀の亀甲紋。
遊侠の人々と直接的に結びついている訳ではなく、英雄とされる人々とも近しく親交を重ねているのだ。
何と言われようが、道半ばで、遺棄せざるを得ぬ状況。
零落し、昔からの流刑の地に漂淪されたまま。
再び塵に埋もれ用いられる所も無くなってしまったとしても、
仮に塵に埋もれて用いられる所が無くなったとしても、夜夜の気は、天につきあたる。


ともあれ、そんなお方についての記載なのである。・・・

郭代公嘗山居,中夜有人面如盤,
目出於燈下。
公了無懼色,徐染翰題其曰:
 “久戍人偏老,長征馬不肥。”
公之警句也。
題畢吟之,其物遂滅。
數日,公隨樵閑歩,
見巨木上有白耳,大如數鬥,
所題句在焉。
  [卷十四 諾皋記上]
郭が、かつて山に住んでいた時のこと。
夜中に、盤のような顔の人間が現れたが、
 燈火の下で、燃えるような目つきをしていた。
郭は全く懼れの色を見せず、冷静に筆に墨を染み込ませ、
 その頬に以下のように記した。
 「守ること久しく、人は老いるだけ。
  遠征すべき馬は、決して肥えることもない。」と。
これは、公の警句である。
書き終えてから、この句を吟じた。
 すると、物の怪は遂に消滅。
数日後、公は樵の案内で散歩したのだが、
 巨木の上に生えている白色の木耳を見つけた。
 数斗ほどもある大きなもので、先の句が残っていた。


「古劍篇」詩の内容も勘案すると、なんとなく感じさせるものがあろう。

異民族討伐の時代が終わり、表面上は天下泰平の世に入ったと言うこと。張り子の虎のような軍で十分となりつつあったということでもあろう。
従って、郭のような古典的武将はご用済み。武力で抑え込まない限り政治的安定などありえぬ、というリアリスト的見方は時代遅れとされたのだろう。
・・・不老長寿食品たる白木耳/銀耳は脱軍事の象徴と見た訳である。

こうした潮流が、ゴマ摺り男が出世する情実人事横行に繋がる訳である。それは、巨大な傭兵勢力を持つ北方国教節度使の反乱の遠因とも言えよう。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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