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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2016.10.29 ■■■

上級者向け迷字Quiz

白川静だったろうか。
こんな主旨の話をしていたと記憶する。・・・
漢文を毎日毎晩休みなく読み続け、30年ほど経つと、ほぼ50才。その頃にして、ようやく書いてあることがわかるようになると言う。
そこから、初めて"知恵を働かせる"ことができるとのこと。

それを実感させられるのが、「酉陽雜俎」と言えなくもない。

生半可な姿勢でこの本に当たっても、理解は困難を究める。魯迅研究に打ち込んでいた今村与志雄でさえ、どう考えるべきか呻吟させられる箇所だらけなのだから。

しかし、研究者にとっては、かえってそれこそが喜びでもあろう。

そんな気分を理解するのに最適な、"迷字クイズ5問"を取り上げてみよう。
但し、仏教コミュニティ内部でのお話。お題は、「事征釋門古今迷字」である。[卷六 寺塔記下]

質問はたったの5文字である。4文字熟語丸暗記をお勧めするクイズとは訳が違う。
もっとも、Watson君なら、そこそこ対応できるかも知れぬが、仏典博識クイズとしての、"核心的"面白味は消えてしまう。

勿論のことだが、答えが「酉陽雑俎」に載っている訳もない。以下の答えは、今村注記バージョンを小生がメタメタに改竄したもの。そのおつもりで。・・・

  「これどんな事跡?」
(第1問)  爭田書貞字  (善繼)
(答) 世情の書によるお話。・・・
僧侶が田圃の土地問題で訴え出た。
担当官僚は手に余ったので、上に最終判断を仰ぐ。
返答は紙一枚に文字1ツ。その文字「貞」。
なんだかわからず。
博覧強記の下部官僚がそれを読み解いた。
  貞は上曰入なり。
  つまり、上に納入せよと。
そんな官僚は、うとまれ遠ざけられた。

(第2問)  馬兜知伯叔  (柯古)
  【注:原本での違いあり】
今村は、趙本の"馬
[=兜]"を採用。一般(毛本)には"焉兜"。
(答) 高僧伝に書いてある話。・・・
高僧が弟子を引き連れて遠出したら、豪雨に遭遇。
雨宿りに農家へ。
高僧が馬を停めようとすると、
その2本の木の間に1石入る馬兜が掛かっていた。
それを見て、ただちに一声。「林百升」と。
ビックリした顔つきで、すぐに、主人が出て来た。
名前が、林伯升だったのである。
弟子もビックリ。
どうしてわかったのか尋ねると、
高僧は笑って言う。
2本の木は林で、1石は百升というだけのこと。

(第3問)  解夢羊負魚  (夢復)
(答) これも、高僧伝に書いてある話。・・・
王が夢を見た。
羊が魚を背負ってやってきたという。
解夢が得意な僧に尋ねてみた。
直ちに、それは不吉であると答えが返ってきた。
魚と羊が攻めてくる予兆そのもの、と。
それは鮮卑のことであった。
本当にそうなったことが、すぐにわかった。

(第4問)  問入曰下人  (善繼)
(答) 有名な伝。・・・
"龍者陰類,出入有時,今而見,
  必有下人謀上之變。"を指す。

(第5問)  塔上書師子  (柯古)
(答) 天竺の高僧が建てたと伝わる塔の話。・・・
港が一望できる高い塔があった。
塔上から師子の様な声で呼ぶと、
師子國舶が入港するとの伝説があった。
そんなこともあってか、
望郷の念がつのる男が、
毎日、塔上から吼えていた。
ある日のこと、それが聞こえなくなったので、
人々が見にいくと、こと切れていた。
その翌日、珍しく師子國舶入港。
僧侶は、男が亡くなった場所に師子の書額を飾った。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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