表紙 目次 | ■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2016.12.2 ■■■ 「家燕」の貶誤「卷十六 廣動植之一 羽篇」を眺め、「色々」【燕】[→]を書いたのだが、間違いをしでかしたことに気付かされた。よりもよって、「續集卷四 貶誤」の項を読んでいて判明。 こんな風に書いてしまったのである。・・・ 燕の種類は、一般的な「漢燕」のほかに、山燕、岩燕が知られていたということだろう。地域名にすれば、それぞれ、胡燕、越燕だ。現代でも後者はグルメ垂涎品の生産者だから知らぬ人なしだが、前者は食に貢献しなかったから中華帝国では忘れ去られるのは致し方なかろう。 「漢燕」と「越燕」が逆だったようである。 「漢燕」の巣は蓐泥だとことわっているからだ。わざわざ、このようにことわるのは、巣の形状が我々がよく見る家に造られた上部オープンなものとは違うことを意味する。入口が小さい洞窟というか壺状ということ。 それならまさしく岩燕(毛脚燕/岩燕/Common house martin)である。(我々がよく見る燕のように家の中には入ってこない。) そう言えば、岩燕は、家燕と比べれば、より南(インドネシア半島)と、より北(満州〜蒙古)にまで羽を伸ばすようで、移動距離は相当長そう。中華帝国の燕としてはこちらの方があっていよう。 「越燕」の胸は紫色。体躯も小振りで、薬用に使われないとなれば、こちらが一般的な家燕/燕/Barn swallowと見るべきだろう。 尚、広東料理のスープ材料として有名な巣を作る雨燕は生物学的には燕ではなく、蜂鳥に近い。 しかし、燕としているから一緒くたかと思ったが、そうは見ていないようだ。 「貶誤」の原文は以下の通り。・・・ 世説蓐泥為窠,聲多稍小者謂之漢燕。 陶勝力註《本草》雲: “紫胸、輕小者是越燕。 胸斑K、聲大者是胡燕,其作巢喜長。 越巢不入藥用。” 越於漢,亦小差耳。 なんといったらよいか、説明が面倒だが、こちらとしては混乱の極みである。 日本で人家に巣造りする「家燕」とはa swallow。家に入ってこないのが「岩燕」だが、欧州ではHouse martin。こちらの方がヒトに近いところに住んでいるのかも。 これを踏まえて、中国だとどうなるか。 厄介なのは、雲南-青海-西域辺りの山がちな地域に棲む上身褐色-下身暗K色の燕の中国語名が「岩燕/茶色燕/Eurasian crag martin」である。日本人的には、通称「山燕」ということになる。 そんなことだと、西域の燕を指していると思われる「胡燕」にしても、日本にやってくる「腰赤燕(徳利燕)」だったりして。名前の由来は腰が赤褐色だからだが、黒い斑紋があるからだ。警戒心が強いので、そう簡単に姿を見れないと聞いたことがある。と言うことは、鳴き声も大きいということかも。 日本の家燕にしても、亜種があり、それなりに外見が違っていたりするもの。どのように峻別するかは簡単な話ではなさそう。 ただ、成式は観察力抜群。その辺りの難しさの見当はついていたので、とりあげたということか。 (参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載. 「酉陽雑俎」の面白さの目次へ>>> トップ頁へ>>> (C) 2016 RandDManagement.com |