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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2016.12.7 ■■■

非熱帯離島の"あごひげ"樹

「卷四 境異」の最後の話は、言葉は難しくないのだが、何を指摘しようとしているのか、想像もつかぬ。
それっぱなしにしておくのも気分悪しなので、無理して解釈してみよう。

近有海客往新羅,
唐代の倭船や新羅船の寄港地はもっぱら明州の寧波である。
そこでの、最近のこと。
その寧波港から新羅に向け乗客を乗せて出航したのだが、


吹至一島上,滿山悉是K漆匙箸。
とんでもない強風に煽られてしまった。
お蔭で、朝鮮半島ではなく、
近隣と思われる、とある島に着いてしまった。
そこは全山まるで黒い漆塗りのハシ[匙箸]だらけといった装い。


其處多大木。
ともかく、その島は、大木が多い所なのである。

客仰窺匙箸,乃木之花與鬚也,
因拾百余雙還。

乗客がハシらしきものを仰ぎ見ると、
それは木の"花"らしきものと、
枝から垂れ下がる"あごひげ"のようなものだった。
そこで、百膳余りを拾って持って還ってきた。


用之,肥不能使,
後偶取攪茶,隨攪而消焉。

その"あごひげ"ハシを使ってみると、
肥っていて強度が足りず使えたものではなかった。
その後、偶々、茶を撹拌する時に"花"ハシを利用してみた。
すると、掻き混ぜているうちに、解けて消えてしまった。


今村注記には、18世紀の朝鮮の書に、この部分が引用されていると記載してある。そして、新羅の南方海島にこのような木がある訳がなく、虚構と断言している、と。

ところが上記のように訳をつけてみると、なんだか見えて来る気がしないか。

鍵は、場所である。
新羅に近いと船頭が勝手に発言しただけで、実は、
この島は沖縄〜先島辺りの離島では。
潮の流れを見誤れば、そういうことは十分ありうる。
それに、とんでもないポカであり、
新羅とは縁なき地と言いたくなかったろう。
素人の乗客相手だったこともあり。
寧波に戻ってしまえば、絶対にわからぬ筈で。

そうすると、この木は何かということになるが、どう見てもガジュマルである。"あごひげ"とは気根のこと。無花果系であるから、普通の花といったものとは違うし。
もちろん大木になる。

言うまでもなく、南洋系(熱帯の海洋性気候の地域)樹木であるから、福建辺りから南の沿岸地帯にも生えており、現代では街路樹や室内用に用いられている位のポピュラーな樹種だが、変種もあろう。
特に離島の場合は、他とはかなり違う可能性が高い。(一般論でそう言ってよいかはなんとも。)

成式は、この"あごひげ"こと、気根を知らない筈はない。つまり、それはもっぱら熱帯気候の地に棲息する植物の特徴的なもの。
東海のだと、北方でも熱帯性植物が育つことに驚いたのであろう。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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