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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2016.12.12 ■■■

烏瓜の名称

カラスウリは誰でもが知る植物だと思うが、その名前の由来はわかっていない。
と言うか、カラスが喜んで実を食べるという創作話が横行しているのが現実。

鳥はつついてすぐに止めるし、獣もさっぱり食べないからこそ、実が残っていて目立つと考えるのが自然。側に行けば、そのままの色を留めて腐って落下している実だらけだし。

唐代もそんなところがありそう。
成式は、その辺りのオチョクリ記述を好んでいそう。そんな例。・・・

老鴉笊籬,葉如牛蒡而美。
子熟時色K,状如笊籬。

  [卷十九 廣動植類之四 草篇]

カラスウリを指していることになっているが、正確に言うと、判然とはしない。

"老鴉瓜"ならその通りと言ってもよさそうだが、瓜とは言わず竹籠のような掬い用具の"笊籬"が付いているからだ。実がその形に似ているからと言うのだが、どういうこと。
笊の𥫗[竹冠]を外し、瓜に書き換えればよいだけと言うのでは余りにも強引すぎる。
しかも、熟した実の色が黒とされている。カラスウリなら、それはいくらなんでもありえまい。種の色のことと解釈するのも無理があろう。

普通なら書きそうもない、葉の話が付随しているが、成式は美食家でもあるから、これには納得感あり。
蔓系だから蔦の形態によく似ており、葉は広がって美形に映るのは確か。それが牛蒡[ゴボウ]の葉に見えてくるという心情もよくわかる。
現代ではゴボウ葉と茎の魅力は失われているようだが、雉肉を使った料理は美味そのもの。カラスウリも、葉も実も実も食べられたらよいのにと思わず感じてしまったと言っているにすぎない。
ハッハッハもの。

解釈の鍵はなんといっても"老鴉"である。カラスウリを指すとされているが、通常の呼び方ではない。
現時点での名称は、王瓜 or 假/烏瓜 or 玉梓[タマズサ]/Japanese snake gourdである。
王瓜は古い言葉のようで、素人的には、赤系の実の烏瓜ではなく、もう少し大き目で黄色の近縁の黄烏瓜だったのではないかと思うが、全くの推測でしかない。もっとも、有毒の上に、種の形が特殊だから、そこら辺りから王との冠名を頂戴した可能性もある。
尚、類縁に小さな実の雀瓜という名称もあるので、もしも実が黒色なら烏瓜という名称があってもおかしくはない。
しかし、この言葉はそれとは無縁とみるべきであろう。"老"がつくからである。

そう考えれば、ア〜、あれかとなろう。
老鴉柿/衝羽根柿[つくばね柿]である。当然のことだが、烏柿と呼ぶ人はいない。

山間部で普通に見られる渋柿で、実は小さく楕円形で先がとがっている。
橙色が多いが、赤や黄色もある。時に、小さな黒いスポットができていることもあり、それが全面にひろがっている実もあったりもする。要するに、タンニン成分が多いので、どのみち完全に熟し切ると全面的に黒色化するのである。カラスウリ同様に、鳥や獣が食べない。そのままで、いよいよ霜が降りてくる時期を迎えることになる。すると、渋味は取れてしまい、甘くなると言われているが、渋抜きせずに干柿にするだけでどこまで行けるのかはなんとも。なにせ、その状態では、ほとんど種だけになってしまい、食べる人はいないからだ。
(ご注意:カラスウリの苦味的な忌避成分は瓜類特有の蔕に含まれる有毒なククルビタシン類。柿のタンニンのように扱うことはできない。)
そんな樹木だが、名前は極めてよく知られている。観賞用では大人気だからだ。

これだけの話では、老鴉のどこにこだわりがあるのかは、わかりにくかろう。
現代の詩でそのイメージを見ておこうか。唐代も同じ感覚だったろうとの前提で。
(作者は米国留学経験者で駐米大使歴任。北京大學学長就任後亡命。中華民国政府の外国顧問を務めた。基隆で死去。)
  「老鴉」  胡適[1891-1962年]@九歌文庫

我大清早起,
站在人家屋角上的啼。
人家討嫌我,説我不吉利;
我不能喃喃討人家的歡喜!

天寒風緊,無枝可棲。
我整日里飛去飛回,整日裡又寒又饑。
我不能帶著鞘兒,翁翁央央的替人家飛;
也不能叫人家在竹竿頭,賺一把小米。


不吉であるからこそ、不撓不屈感が生まれるようである。

カラスウリを眺めると、こうした感情が芽生えるのかも知れぬ。

さすれば、笊籬という表現は、カラスウリの花期を暗示していると言えなくもない。
夕刻に開花を始め翌朝は萎んでいるというあっけないものだが、花の縁が裂けていき、無数とも思える白い細糸が伸びて拡がる。
レース編みをしているが如し。それを瓜籠と呼んだのか。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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