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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2016.12.15 ■■■

三葉白の嬉しさ

魚腥草/草 or 毒溜[ドクダミ]/Fish mintは、日陰の湿った場所があれば必ずと言ってよほど見かける草である。

独特の臭気があり、好き嫌いがありそうだが、色々と利用されてきた植物である。
寺院内にも生えているせいもあるのか、魚腥草茶の仏教的な伝説があるとも言われている。

蔓性で、葉は山芋的。花は薄黄緑色の穗状の突起の基部に白い十字の花弁がついているように見えるが、生物学的には、花弁ではなく、"総"苞に当たる。

・・・と言う話は、「酉陽雜俎」には一切触れられていない。
しかし、そのドクダミの近縁である三白草/片白草 or 半夏生/Lizard's tailの方は簡単だが、触れられている。

三白草,此草初生不白,入夏葉端方白。
農人候之蒔,曰:
 “三葉白,草畢秀矣。”
其葉似薯蕷。

  [卷十九 廣動植類之四 草篇]

魚腥草も三白草も、段成式邸の広大な庭に沢山あったろうし、なんら珍しい草でもないが、こちらだけは取り上げておきたくなったのだと思う。

三白草は、どうも、何の伝説もないようだから。

それが、いかにも不思議と感じたに違いない。
観察が趣味のような成式にとっては、これほど神秘的な草は他に無いからである。

山芋型の青々とした葉が茂っているのに、丁度、花が咲く頃になると、その穂状の花の側の葉だけが、突然にして葉の端から白い粉が葺いたように変色していく。しかも片面だけ。
花が完全に咲く頃には、その周囲3枚ほどの表面が真っ白になるのである。
ところが、咲き終わる時期が到来すると、再び、元の緑色に戻って行く。

成式のことだから、ドクダミの白い十字架の前駆的な現象と想像したに違いないが、それにどういう意味があるのか考えたに違いないのである。答えが得られたかは定かではないが。
もちろん現代の生物学的には、虫媒花の特徴ということで片付けられるに過ぎぬが、その確実な証拠があがっている訳ではなさそう。

成式が感心したのは、農民がこの草の信号を読み取り、農事暦にしていたこと。(日本だと、誰でもが知る、半夏生なのだが。)
暦は天子直轄であり、農事のアドバイスはもっぱら術師に依存しているように見える社会だが、その実、百姓の独自の知恵で動いていることに気付かされたのだと思う。

引用した言葉は踊っており、いかにも楽し気。訳も無く嬉しかったのだと思う。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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