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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2016.12.16 ■■■

根無葛の種

菟絲/根無葛[ネナシカズラ]/Dodderが取り上げられている。・・・

菟絲子,
多近棘及
山居者疑二草之氣類也。

  [卷十九 廣動植類之四 草篇]

題名は植物ではなく、その種子の"莵絲子"の方。
漢方として大人気だったのであろう。中華風土から考え、おそらく、強壮作用甚大ということでは。
そのあたりの、効果のほどは知らぬが、成式としては植物の生態の方に関心があったと思われる。

中華的薬効とは、服用することで、そのモノが持つ特性を頂戴することにあるから、こういった話は皆大いに気になるだろう。とりあえず書いておくかといった調子の文章に映る。

根無葛だが、知る人ぞ知る類の蔓植物。生物学の分類では朝顔系に近いようだが、こちらは完璧な寄生植物であり、素人的観点では似ているところは何もない。

朝顔の種と同じで、発芽後すぐに根がでるが、こちらは蔓を伸ばす方に全力投球するタイプ。
数日のうちに、寄生対象を見つけて蔓を巻きつけると、そこで一安心となる。そして根は枯れる。相手を見つけることができないと消滅するしかないので、必死である。
その後は、寄生先の茎中に根を差し込み養分を得るだけ。自身で光合成する気はさらさらない。そのため、葉は不要であり、蔓の色も黄〜橙〜赤である。(多様のようだから、変種もありそう。)
調子に乗れば、一帯を網のように覆い尽くすことも可能。

根が差し込めそうな茎を持っていれば、どんな植物も寄生対象としていそうだから、種の成分は一定していないようにも思えるがどうなのだろうか。

成式は、この植物の体質は、棘類と類が合わさったものとの見方をしているようだ。
棘は棗 or 酸棗/棗[ナツメ]/Chinese date
は「説問」では釐艸と記載されているが、これではさらにわからぬ。蔓華と見たらどうか。他を頼って生きる蔓植物のなかでは、イイトコ取りの最高峰ということで。(今村注記では藜[アカザ]とされている。)

要するに、山で採取した菟絲子は、普段使いしている"健康食材"たる棗と同じように滋養が十分期待できるということ。寄生の蔓草として、なかなか良い仕事をしていると大いに褒めているのである。

もっとも、それは、出芽の様子を知っているからである。
中華的発想からすれば、"莵絲子"にはとてつもなき凄い力があること間違いなし。これを食べれば、一生、伸う伸うと寄生して暮らせますゾと口をすべらしそうになったのではあるまいか。
一人で笑いながら書いた文章である。

そんないい加減なこと言うな、とおっしゃる方もおられるかも知れない。
根無蔓など、そうそう生えているものではないし、山でしか見られないのだから、と。
驚くなかれ。成式先生、自宅の庭で栽培しているのである。・・・

野狐絲,庭有草蔓生,
色白,花微紅,大如栗,秦人呼為狐絲。

  [卷十九 廣動植類之四 草篇]

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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