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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2016.12.24 ■■■

躡空草

いかにも、伝説という一文あり。・・・

掌中芥,末多國出也。
取其子,置掌中吹之,一吹一長,長三尺,乃植於地。

  [卷十九 廣動植類之四 草篇]

後代の話だが、この掌中芥が取り上げられている。魯迅がそれを引用している。・・・
林之洋笑道,
 “妹夫要這樣很嚼,只怕這裏青草都被吃盡哩。這芥子忽變青草,這是甚故?”
多九公道,
 “此是‘躡空草’,又名‘掌中芥’。
  取子放在掌中,一吹長一尺,再吹又長一尺,至三尺止。
  人若吃了,能立空中,所以叫作躡空草。”
林之洋道,
 “有這好處,俺也吃他幾枝,久後回家,儻房上有賊,俺躡空追他,豈不省事。”
於是各處尋了多時,並無蹤影。
多九公道,
 “林兄不必找了。此草不吹不生。
  這空山中有誰吹氣栽他?
  剛才唐兄吃的,大約此子因鳥雀啄食,受了呼吸之氣,
  因此落地而生,並非常見之物,卻從何尋找?
  老夫在海外多年,今日也是初次才見。
  若非唐兄吹他,老夫還不知就是躡空草哩。”

  [周樹人/魯迅:「中國小説史略」第二十五篇 清之以小説見才學者 1924年]

手の平に乗せて息を吹きかけると伸びていくという、異草そのもの。いかにも、ナンダカネの類。そこから来た"掌中芥"という命名だが、本来の名称は"躡空草"のようである。
躡は、軽い足取りでの小走りの意味。空草とは、荒地に生えている草かと思ったが、軽くて空中浮揚能力を与えることを意味するようだ。

まさに怪ではあるが、そういった状況が書かれている書があり、このようになっている。・・・
有掌中芥,叶如松子。
取其子置掌中,吹之而生。一吹長一尺,至三尺而止,然后可移于地上。
若不経掌中吹者,則不生也。
食之能空中孤立,足不躡地。
亦名躡空草。
  [漢 郭憲:「洞冥記」 卷三]
この書では、末多國という地については五味草の説明で登場している。
末多國 獻此草。此國人長四寸,織麟毛為布,以文石為牀,人形雖小,而室宇崇曠。

これらを読んだからといって、とうてい、植物を想像できるものではないが、地域については推定できそう。
シダ植物の毛羽のようなモノを用いて織物を作るとか、文石(=霰石)の産地らしいから、蒙古の山地と見てよいのでは。

そこは、内陸の乾燥地帯であり、風が極めて強い。下手に木を生やしでもすれば、かえって砂漠化する可能性の方が高い。緑化させるには、まずは風で土壌が飛ばないように草を植え、砂地を固定化する必要があろう。それを考えると、乾燥した砂地でも生きれる、葉が松葉のようで根が張ることもないシダがあり、それを先ずは植えることから始めヨという伝承話のことではなかろうか。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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