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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2016.12.30 ■■■

月神専用車担当御者の蓮花

"望舒"は、月神を乗せた車の御者の名称。
その名を頂戴した草の説明文が収載されている。南海周りの船便で渡来した植物のこと。・・・

望舒草,出扶支國。
草紅色,葉如蓮葉,月出則舒,月沒則卷。

  [卷十九 廣動植類之四 草篇]

小生が呆れるのは、現代人の多くが、この手の話を想像上の作り話と見なしがちな点。初めから、「酉陽雑俎」は奇譚を集めたくて編纂されているとの結論から見るからそうなるのである。それなら、すべてがそういう話として扱うのかと思うと、自分に都合がよい部分は唐代に存在した植物の話であるとするのだ。現代も、道教信者的体質にドップリ染まった人だらけであることがわかる。

成式は、国際的な交流を通じ、潮を吹く鯨さえ知っていた正真正銘のインテリである。夜に開く花についても、じっくりと話を聞いていたに違いない。しかし、そんな知識をひけらかすつもりはさらさらない。
それを踏まえ、世の中に流布する"知識"とは、こんなものだと指摘しているだけ。極めて素っ気ない記述だが、自分の頭で考えない人だらけの社会でまともな意見を述べたところで、そんなものにたいした意味はないと達観しているとも言えよう。

それを理解して読んでいれば、ココの記述内容はすぐにわかる。実に、簡単なこと。
この草には、なんの珍しさもないからだ。要するに、"如蓮葉"ではなく、"蓮葉"と考えればよいのである。

そのご説明の前に出典を引いておこう。多少詳しいので。・・・
晋太始十年,立河橋之,有扶支國,獻望舒草。其色紅,葉如荷。近望則如卷荷,遠望則如舒荷,團團如蓋。
亦云,月出則葉舒,月没則葉卷。植於宮内,穿池廣百歩,名曰“望舒池”。
愍帝之末,胡人移其種于胡中。至今絶矣。其池尋亦平也。(出《拾遺録》)

  [「太平廣記」卷第四百八 草木三]

さて、どういうことかといえば、次の2点を知っていれば、"異なる草"である筈がないということ。

〇 花が開くと、葉がそれにつれて開く草がある。
〇 花が夜開く草がある。

問題は、後者。
現代人ならば、夜来香、待宵草-月見草でご存知なので、誤解が生まれがちなのである。この手の種は、北米からの渡来種だらけで、どれもこれも黄色の目立つ花。それこそ月からの使者と呼ぶにふさわしいが、単に、"珍"として扱うことになる。そのため、ついつい、そのような植物は、アジアには無いと考えてしまいがち。

だが、常識を働かせれば、そんなことがあろう筈がない。
なにせ、何故に、植物は花という目立つ器官を持つ迄に至ったのかの理屈を暗記させられているのだから。

夜の気温が高い熱帯域には、夜だけ大活躍する、花の蜜に群がってくる、蝙蝠、甲虫、蛾、といった生物が多いのを知っているのなら、アジアで、夜開花植物が滅多に無いなどと考えるのはどうかしている。

これでおわかりになるのでは。
熱帯性の蓮には、昼咲と夜咲が存在するということ。
それだけの話。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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