表紙
目次

📖
■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2017.1.22 ■■■

狒々

動物和名"ヒヒ"は大陸伝説の"狒々"由来とされている。

それでは、その狒々とは、創造された表象にすぎないのだろうか。
確かに、ヒヒの仲間は中華圏外でしか棲息していないからそうかも知れぬ。
  マントヒヒ@アフリカの角〜アラビア半島;サバンナ気候
  サバンナヒヒ
@サブサハラ広域
   (オリーブヒヒ, キイロヒヒ , ギニアヒヒ, チャクマヒヒ)
  ゲラダヒヒ
@アビシニア高原[荒野]
  マンドリル
@コンゴ〜ナイジェリア:熱帯雨林気候
(我々が映像で知っているヒヒは一般に大型で顔が長い。一方、マンガベイ(地上棲種+樹上棲種)は小型で顔が短く、かなり遠縁に映る。ところが、分子生物学的には近縁。
このことは、外観上の形態学的分類は進化上ではたいした意味を持たないことを意味する。・・・およそ、2,400万年前に、類人猿が分岐したとされているが、類人猿はその後分化[ゴリラ, チンパンジー, オラウータン, ヒト]。ヒヒも間違いなく同時代に分化したであろう。)


成式は、猩々も狒々も、収載すべきか、考慮に考慮を重ねたのではないか。
両者ともよく知られていたようだし。
  ---狒狒穿筒格,猩猩置馴。---
  [「和樂天送客游嶺南二十韻」元]

猩々の方は、オランウータンを指すのか、表象かということで、まさに同じ悩み。[→]結局、猩々は所収せずだから、空想にすぎぬと見なしたことになろう。
そのかわり、オラウータン的特徴を持つ人的なオオザルの話は所収した訳である。それはそれ、社会的な意味があるからだろう。

これと同じ姿勢を貫くなら、狒々は空想の可能性もあるからということで、所収せずでもよかったのである。
ところがそれを避けた。
何故かと言えば、現実に帝に献上されたとの記載を見つけたから。・・・

狒狒,---
宋建武高城郡進雌雄二頭。

  [卷十六 廣動植之一 毛篇]

ここからが、成式の本領発揮である。
宗にこのような年代は無い。間違ったママにしたのである。
多分、東晋の建武[317-318年]であろうが、それを確かめる術はない。そうだとすれば、広東辺りに当たる地域である。
オラウータン的特徴を持つオオザルの話もこの辺りが多いようで、猩々も狒々も、そんな場所に棲息している筈がなかろうと見たに違いなかろう。

狒々の特徴はこのように記載されている。・・・

狒狒,飲其血可以見鬼。
力負千斤,笑輒上吻掩額,状如猴,作人言,如鳥聲,能知生死。
血可染緋,發可為
舊説反踵,獵者言無膝,睡常倚物。

  [卷十六 廣動植之一 毛篇]
その血を飲むと鬼を見ることが可能。
その力は強く、千斤を背負うことができるほど。
笑うと唇がめくれて額を覆う。
身体全体で見れば、テナガザル類こと"猴"。
ヒトの言葉を用いており、鳥の鳴き声に似ている。
生死を察知する能力がある。
血を使えば緋色に染めることができる。
その頭髪は鬘に使える。
旧説はこんな調子。
 踵の向きは柔軟。
 猟師によれば、膝が無い。
 物に寄りかかって睡眠をとる。


現存動物のヒヒについての知識があると、旧説は、この動物の実態をかなりリアルに表現しているようにも思える。
どのように、書かれているかと言えば、こんな具合。・・・

狒狒,如人,被髮迅走,食人。
  [「爾雅」釈獣]
人に似ている。髪を振り乱して疾走する。人を食う。

梟陽國在北之西,其為人人面長脣,K身有毛,反踵,見人笑亦笑;左手操管。
  [「山海経」海内南經]
梟陽國に棲息。
人面長唇、体色黒で有毛。
踵の向きは柔軟。
人の笑うのを見て自分も笑う。
左手で管を操る。


南方有巨人,人面長脣,K身有毛,反踵,見人則笑,唇蔽其目,因可逃也。
  [「山海経」海内経]
南方に巨人がいる。
人面で長唇、体色黒で有毛。踵が反りかえっている。
踵の向きは柔軟。
人の笑うのを見て自分も笑う。
唇が目を覆ってしまるので、すぐに逃げることが可能。


先ず、人を喰うという情報があるが、これはヒヒ系の特徴かも。食性的には完璧な雑食性の種がいるようで、ヒト同様に選り好みなしとされており、行動力を考えると肉食系に近い可能性が高い。獲物としては、ヒトは悪くはない。
"反踵"は、なかなか鋭い観察である。類人猿やヒヒは迅速な歩行を見せるが、必ずしもヒトのように足裏をつけている訳でないからだ。
笑いは、勝手にそのような表情と見なしているだけ。上唇をひっくり返すのは、存在感を示したい時の仕草。ヒヒは口蓋が大きく開く構造のようだから、唇がひっくり返ると相当なものになったのであろう。

これらは、じっくり見たことがないと、わかるまい。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

 「酉陽雑俎」の面白さの目次へ>>>    トップ頁へ>>>
 (C) 2017 RandDManagement.com