表紙 目次 | ■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2017.1.27 ■■■ インドガン斑頭雁 or 白頭雁/印度雁[インドガン]/Bar-headed gooseの名前を覚えている人は少ないかも知れないが、その特徴を聞かされると、ア〜、あの鳥の名前かと気付くに違いない。・・・そう、とてつもない障壁以外のなにものでないヒマラヤ山脈を越える渡り鳥としてあまりにも有名だからだ。山脈の鞍部を見つける能力も凄いが、編隊を組むことで気流に上手く乗り、エネルギーロスを抑える社会的仕組みは驚異的でもある。 なにせ、高度6,000m以上の低酸素領域でゆうに半日は飛び続けるのだ。判断を間違えれば、集団で全滅の憂き目は確実。2ヶ月、8,000Kmの渡りの最大の難関と言えよう。 もちろん、そんな話が、「酉陽雑俎」に記載されている訳ではない。 ただ、銀の鎖がついた鵞鳥の話があり、これをどう考えるべきか気になっていたので、取り上げてみたくなっただけ。 → 「羽 (色々)【鵝/鵞】」 これでは、何が言いたいのかさっぱりわからぬか。 この鵞鳥は、ペット的に可愛がられていたから、立派な装飾品をつけていたのだろうと見た。 随分と現代的な発想であるが、それはこの鳥をガチョウという家禽と見なしたからである。この鳥は、ヒトによく懐くし、庭を走り回るが、逃亡する気はほとんどない。(ただ、思慮浅き動物のようで、遊んで走り回っていているうちに、逃亡同様の事態に陥ることはある。)それに、ほとんど飛べないのだ。鳥の本分たる飛翔能力を"人工的に"消されたのである。 どう見ても、信仰対象動物となる可能性はゼロだから、ペットだろうと考えた訳である。 しかし、この見方は、日本の常識に反していることにご注意あれ。仏教守護神が飛べない家禽であるガチョウに乗るとされているからだ。・・・ 梵天/Brahmāの乗り物は"鵝"であり、この文字は現代中国でガチョウを意味するというに過ぎないが。(尚、正式名称は、インドでは、Hamsa/白鵝。) さらに、月天/Candraも鵝の背(or 白鵝車)に乗ることを付け加えておこう。 それだけではない。 仏の三十二相の一つに手足指縵網相[水掻き膜]があり、これもおそらく"鵝"の形象であろう。 実は、もう一つ、訳のわからぬ話が収載されている。・・・ 晉時,營道縣令何潛之,於縣界得鳥,大如白鷺, 膝上髀下自然有銅環貫之。 不図、この訳のわからぬ鳥は特別な能力を持つ水鳥かもしれぬとの想いが浮かんできたのである。 鳥の特徴については特段の説明もなく、単に大きさが白鷺というだけ。このことは、白鷺と混じって一緒に生活している霊鳥を指す、と考えたのである。 そうすると、インドガンが当てはまるのではないか、と。 しかし、その姿は、白鵝とは言い難い。 白いのは頭部の一部にすぎないし、体色全体は灰色だからだ。(体型は、まごうかたなき雁だから、鵝の類ではあるが。) そこで、白鵝に当たりそうな鳥を考えてみた。 生物学的+文字的には、こういうことになる。 【家禽化種】鵝/鵞鳥/Goose 【その野生種】白額雁/真雁/Greater white-fronted goose ガチョウの野生種である雁は白くはないから選ぶ訳にはいかぬ。 代替種としてはこんなところか。 雪雁/白雁/Snow goose 天鵝/白鳥/Swan 雪雁が該当するとは思えぬし、白鳥は余りに仏教の聖鳥イメージとかけ離れている。(西洋人の感覚だと、そうはならないかも。) そうなると、インドガンもその有力候補と見なしてもよいのではなかろうか。月夜に飛ぶシーンでは、白鵝と呼ばれてもおかしくないと思うのだが。 (記事) "Bar-headed geese: Highest bird migration tracked" By Victoria Gill, BBC News 15 January 2015 (参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載. 「酉陽雑俎」の面白さの目次へ>>> トップ頁へ>>> (C) 2017 RandDManagement.com |