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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2017.2.1 ■■■

貯め糞野郎

極めて判断が難しい動物譚がある。・・・

𧑵,似黄狗,有常處。
若行遠不及其家,則以草塞其尻。

  [卷十六 廣動植之一 毛篇]
黄色の犬[狗]に似ている。
トイレの場所が常に決まっている。
もしも、家に戻れないほど遠くに行くことになったら、
草でその尻を塞ぐ。


《顏氏家訓》によれば、「[=虫+鬼]」は蛹のことで、繭を意味しているようだが、𧑵と差が無く同義に近いそうだ。[康熙字典]
しかし、そうなると、"黄色の犬と似ている"以下の説明がさっぱりわからぬ。
ただ、似ていると言っても、それは姿形ではなく、食した場合の美味しさなのだろう。
狗肉では黄色が最上級だし。(黄/赤, 黒, 斑, 白の順。)

ともあれ、滅多に使われない文字のようだから、諷刺で書いたものではなかろう。

これ以上、いくら考えてもどうにもならぬが、諦めるのも癪だ。
冗談ぽくてえらく面白い内容だし。・・・
外出時に糞をしないで済むよう、尻穴に草を詰めてから出かけると言うのだから。

そんな糞の仕方に注目すれば、何故にこんな話を書いたのか薄々わかってくる。

今の世の中のペットだらけだが、そこで考えてみよう。

猫の場合は、野良にしても自分の糞尿場を決めているようだ。結構、神経質なのである。
犬は違うようだ。躾ていないと、場所にそれほどのこだわりはなさそう。ともかく、外出時にどこかで糞尿といった感じ。その糞たれ仕草をじっと見ていると、バツが悪そうだし、糞に土をかけて隠そうとする。
これらを見ただけで、残っている野生時代の習性を探るのは難しいが、少なくとも、自分の巣穴を汚したくないとの意向はありそう。

で、フト、思うのである。
狸の姿勢のユニークさを。
糞場が決まっている。個体毎ではなく、家族全員用。俗に言う「貯め糞」。
夜行性動物だから、夜明けに脱糞して清々し、気分上々でおもむろに寝所に帰って行くのだろう。それは無上の歓びなのかも知れぬ。

なんのために、そのような場所を設定する必要があるのかの説明を見かけないところを見ると、その理由は未解明なのかも。
動物観察がお好きな成式先生も、流石にわからなかったのではないか。

さて、そんな狸の糞の話を何故にすることになったかといえば、自邸の広大な庭の、一番気にいっている辺りを「貯め糞」場にされてしまったからではないか。
柵など取り付けても、効き目ゼロであり、おそらく徹底的に清掃して一晩見張りを置いたりした筈。
しかし、狸公が来ないのはその時だけで、見張りがいなくなれば、その翌朝にたんまりと置土産である。

ちなみに、この項には今村注記は無い。
流石に、馬鹿馬鹿しくなったか。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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