表紙 目次 | ■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2017.2.16 ■■■ 食人盗賊ブラックな盗賊話が収載されている。中身は思った以上に難解である。・・・李廓在潁州,獲光火賊七人,前後殺人,必食其肉。 獄具,廓間食人之故,其首言: 「某受教於巨盜,食人肉者夜入, 人家必昏沉,或有魘不悟者,故不得不食。」 兩京逆旅中多畫鸚鵒及茶碗, 賊謂之鸚鵒辣者,記觜所向; 椀子辣者,亦示其緩急也。 [卷九 盜俠] 李廓が潁州[@河南阜陽]に居た時の話。 "光火"[松明を持つ押し込み強盗]賊7名を捕獲した。 前後に殺人の上、必ずその肉を食べるという一味。 具体的罪状をもとに投獄する段になって、その合間に、 李廓はどのような理由で食人をするのか問うた。 すると、こんな答え。 「某は、巨大な盗賊から教授されたのじゃ。 人肉を食すのは夜忍び込む時。 人の家に入ると必ず朦朧としてくるもの。 或いは、魔がさして不覚になったりする者もいる。 そこで、食べずには仕事にならないのじゃ。」と。 ところで、長安と洛陽の道中には、 鸚鵒の画や、茶碗が多い。 盗賊はこれを鸚鵒の棘と呼ぶ。[ジャーゴンであろう。] 嘴の向かう場所を指すのだそうだ。 宛子の辣と言う場合は、その緊急性を言うのだと。 長安〜洛陽の旅では、しばしば盗賊に襲われることがあったのだろう。もともと、地方では、この手の被害は少なくなかったたようだ。 夜至南徐州,踰城而入,行光火劫盗;旦還及牙時,仍又執繖 [「隋書」麥鐵杖傳@四庫全書] 劍南 有光火盜,夜掠人,晝伏山谷。 [「新唐書」馮元常傳] 近華州奏有賊光火劫下邽。 (胡三省注: 明火行劫,言盗無所憚。)[「資治通鑒」唐宣宗大中七年] そんな盗賊が、本当に人肉食を習慣にしていたのかはよくわからない。 そもそも、「食人事件」は25の史書系文献上は約400見つかるという。時間軸的には数年に1回は話題になっているといったところか。白楽天の詩「輕肥」でも、"是歲江南旱,衢州人食人。"とあるから、奇異な現象と考えるべきではなさそう。 その動機を考察すると、大約之れを以下の五種に區別することが出來るそうである。 【1】 凶年飢餓時(市場で公然販売)・・・殆ど慣例。 【2】 戰爭の糧食盡くる時・・・殆ど一種の慣例。 【3】 嗜好・・・例は餘り多くない。 【4】 憎惡の極,その人の肉を食ふ.・・・率直なる事實。 【5】 疾病治療の目的(本草的効用)・・・唐以後に限る。 [桑原隲藏:「支那人の食人肉風習」1919年@青空文庫] マ、いかにも、ありそうなこと。 盗賊の場合は、人肉食を通じて精気を頂戴するという、いかにも道教的な信仰が基にありそうな【5】に当たるのだろうか。盗賊も、貴人のおどろおどろしい発想となんらかわりがないというより、その真似といえるのかも知れぬ。なにせ、唐代以前にはみられなかった風習らしいから。 (参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載. 「酉陽雑俎」の面白さの目次へ>>> トップ頁へ>>> (C) 2017 RandDManagement.com |