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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2017.4.7 ■■■

人影

"成式見蜀郡郭采真尊師説也。"と書いているから、信用に足る話として収載されたのかも。・・・

道士郭采真言,人影數至九。
成式常試之,至六七而已,外亂莫能辯,郭言漸益炬則可別。
又説九影各有名,影神:
 一名右皇,
 二名魍魎,
 三名泄節樞,
 四名尺鳧,
 五名索關,
 六名魄奴,
 七名竈
  舊抄九影名在麻面紙中,向下兩字,魚食不記。
 八名亥靈胎,
 九__
(魚全食不辯)。
  [卷十一 廣知]

人の影にも神が存在するというのである。

それを教えてもらい、成式も実際にいつも試しているというのだ。
9つのタイプだが、成式は6〜7ではないかと感じているとのこと。

う〜む。これは難しい。

ただ、魍魎[=罔兩]が登場するので、ヒントを与えてくれる。・・・
罔兩問景曰:
 「曩子行,今子止,曩子坐,今子起。
  何其無特操與?」
景曰:
 「吾有待而然者邪?
  吾所待又有待而然者邪?
  吾待蛇蜩翼邪?
  惡識所以然!
  惡識所以不然!」

 [「荘子」内篇齊物論第二]
罔両が前の景[=影]に問いかける。
「どうして節操が無い動きをするの?」
それに応えて、
「まあ、付き合っているということかナ?
 しかし、
 その相手も同じように動いているにすぎないのでは?
 そうなると、蛇の鱗か、はたまた蝉の羽のようなモノに
  ただ侍っているだけなのだろうか?
 だが、そんなことは、ワシャ知らん。
 どうしてそうなるかなど、ワシの識るところではない。」


さすれば、こういうことかナ。

人の身体というか、肉体は「形」あるもの。道教的には、そのなかには神が居ることになる。
一方の「影」だが、物質的なものとまではいえないが、空想で存在するものとは違う。ただ、必ず、「形」から生まれ、それと切り離すことはできない。分身的だが実体的とまでは言えまい。
そこに「神」が宿るというなら、Shadowという輪郭がはっきりしていて、目に見える"もの"を意味せず、抽象的な概念である"精神"を指すのではなかろうか。

かなり形而上的なお話ということになる。
マ、そんなことを、「酉陽雑俎」を読んでいて思いついた訳ではなく、陶淵明の詩を解釈したような話と感じただけのこと。・・・
  「形影神 並 序」 陶淵明
 <序>
貴賤賢愚、莫不營營以惜生、斯甚惑焉。
故極陳形影之苦、言神辨自然以釋之。
好事君子、共取其心焉。

貴賤賢愚すべからく、あくせくした人生。
それでよいのかネ。
神の解釈をご紹介したく、・・・。
好事家の君のこと、その心地、おわかりになるだろう。

 <其一 形贈影>
天地長不沒,山川無改時。草木得常理,霜露榮悴之。
謂人最靈智,獨復不如茲。適見在世中,奄去靡歸期。
奚覺無一人,親識豈相思。但餘平生物,舉目情悽洏。
我無騰化術,必爾不復疑。願君取吾言,得酒莫苟辭。

《「形」が「影」に贈る言葉》
天地も、周囲も、ずっとそこにある。
人はそのなかに居るだけ。
死んで戻るなどありえない。儚い存在なのである。
そうなら、酒を辞すなどよした方がよかろう。

 <其二 影答形>
存生不可言,衞生毎苦拙。誠願游崑華,然茲道絶。
與子相遇來,未嘗異悲ス。憩蔭若暫乖,止日終不別。
此同既難常,黯爾倶時滅。身沒名亦盡,念之五情熱。
立善有遺愛,胡爲不自竭?酒云能消憂,方此不劣!

《「影」が「形」に答えた言葉》
長生への道や不老不死の術がある筈もない。
皆、死ぬのである。没すれば名前も霧散。
ただ、善行あれば思い出してくれる。それに尽きる。
酒で憂いをはらしても、たいした意味はなかろう。

 <其三 神釈>
大鈞無私力,万理自森著。人為三才中,豈不以我故!
與君雖異物,生而相依附。結託既喜同,安得不相語!
三皇大聖人,今復在何處?彭祖寿永年,欲留不得住。
老少同一死,賢愚無復数。日醉或能忘,将非促齡具?
立善常所欣,誰当為汝誉?甚念傷吾生,正宜委運去。
縦浪大化中,不喜亦不惧。應盡便須盡,無復独多慮。

《「神」の解釈》
一人の力といっても、所詮は万物の理のなかでの話。
しかるに、その中心にいるかに感じるのは「神」あってのこと。
「神」は「影」「形」とは別とはいえ、生来的には一緒。
だから、聴いてくれたまえ。
三皇は確かに大聖人。しかし、皆、死んでしまった。
誰もが、死ぬのである。
酒に酔って忘れても、結局は、寿命を縮めているだけの話。
善行も良いが、それが君の誉れになるとは限らない。
専念が過ぎれば、命を傷めるだけ。
要は、変化の流れに身をまかせ、
 喜んだり、懼れたりせす、
 寿命が来たら来ただけのことと受け入れよう。
独り慮っているばかりという生き方はよそうではないか。


(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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