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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2017.4.17 ■■■

酉陽雑俎的に山海経を読む

--- 海外東経 ---

<海外東経>の対象は東南隅〜東北隅。

この東方地域のハイライトは兩龍に乗る人面鳥身の句芒
《東》青龍の前身であろう。

海外経の南-西-北-東と、最後に記載されている神を"ハイライト"と呼んでいる理由がおわかりだろうか。
これこそ、中華帝国化への最初の一歩なのである。それは、ここまでの内容を見返してみると、その歴史観がはっきり見えてくる。素晴らしい書である。・・・

先ず山経が原初信仰のパターンを見せてくれる。ここに記載されているのは、それぞれの山毎の神への信仰。祭祀はあくまでも各山神に対するもの。ただ、山系で見ると、ほとんど決まった神の風体があり、祭祀次第も決まっていたとされる。まとまりがつき始めていたのである。
そして、山系には「首」山が設定されていたとも。

それが、海外経の段階になると、山ではなく、国となる。しかし、国毎の神が存在している場合はそうそうある訳ではなく、従来信仰パターンが変節してはいるものの、本質的には踏襲されていたのであろう。

しかし、信仰上では画期的な一歩が踏み出されたことがさりげなく記載されている。だからこその"ハイライト"なのである。
地域というか、南-西-北-東という大ぐくりの地域毎に神が存在しているからである。これを方角神にしてしまい、中央神を設定すれば、大中華帝国のヒエラルキーが完成することになる。その過程を示すのが、<海外東経>では句芒ということ。

こんな説明ではわかりにくかろう。「山海経」の南西北東とは真っ向から対立的な、「淮南子」の東南中西北-五行観を示す箇所を引いておけば自明だと思う。・・・

東方,木也,其帝太r
 其佐
句芒,執規而治春。
  其神為星,其獸《蒼龍》,其音角,其日甲乙。
南方,火也,其帝
炎帝
 其佐朱明(⇒
祝融),執衡而治夏。
  其神為惑,其獸《朱鳥》,其音24501;,其日丙丁。
中央,土也,其帝
黄帝
 其佐后土(⇒無い.),執繩而制四方。
  其神為鎮星,其獸《黄龍》,其音宮,其日戊己。
西方,金也,其帝
少昊
 其佐
蓐收,執矩而治秋。
  其神為太白,其獸《白虎》,其音商,其日庚辛。
北方,水也,其帝

 其佐玄冥(⇒
禺彊),執權而治冬。
  其神為辰星,其獸《玄武》,其音羽,其日壬癸。


コレ、まさに官僚的作文そのもの。

中央の黄帝をリーダーとする5帝が設定され、広範地域の神である句芒祝融はその補佐役とされるに至ったのである。
これらの地域神の乗り物はもともとは兩龍。(1柱は、蛇を踏んでいるだけだが。)こちらも、単なる聖獣の《蒼龍》とか《朱鳥》と化した訳である。

ついでに、もう一つ。
唐突に、ソロバン超能力の豎亥が登場する。距離の単位は"里"だが、東西間を"歩"で測ったとのこと。南北は別らしい。「淮南子」にはそちらの計測者の名前も一緒に記載されている。そのプロジェクトの責任者はもちろん禹とされている。身を粉にして帝国全土の治水に大いに貢献したということで、儒教の誉れを浴びている訳だ。この書籍執筆責任者も禹以外にありえまいと言いたいのであろう。マ、文芸書ならそれで終わりだが、政治では、そのお蔭で民は生きてこれたのだから、禹の末裔に貢ぐのは義務との理屈がついて回る訳だ。

それでは、<海外東経>を見ていこう。・・・
ここは東シナ海を指すというよりは、西太平洋の島嶼域を扱っている。従って、方位の記載は、コンパスが示す東西南北とは異なることに注意すべきだろう。遠洋航海の場合は、船が依拠するのはあくまでも海流であり、北の方向を目指したからといって、到達先がメルカトル図法で示されている北側の島に到達する訳ではないからだ。

冒頭は山の記述から始まる。
   𨲠
   青馬, 視肉
   
【大人國】大坐削船
§これはまさしく、遠洋航海好きな海人である。倭にも、早くからその一派が到着していたに違いない。先島・沖縄から五島列島・済州島あたりまでは、海流的に繋がっており、大陸文化とは一線を画しているから、そのテリトリーと見て間違いなかろう。§
【奢比尸 or 肝・・・獸身人面大耳珥兩青蛇
【君子國】衣冠帶劍食獸使二文虎在旁 好讓不爭
§中華的な抗争好き風土を嫌って、そこから逃亡した人々が細々と共生している地。それが君子に映るのであろう。海に閉ざされ、変化に富んだ細々とした地勢の箱庭的な島ということ。従って、日本列島を指している可能性は高そう。なにせ、この国の聖数は大陸とは違う8のようだし、水を崇めているようだから。§
𧈫𧈫・・・兩首
天呉 or 水伯・・・神獸 八首人面八足八尾背青黄
【青丘國】食五穀衣絲帛
§東の果てには深々と森が茂る青丘あり。そこがどの位遠いのか、算盤で数えて確認したというのだから話は凄い。北方の島(e.g.北海道〜樺太)の原生林と僅かな野にでてくる北狐の情景を示しているように思える。もちろん、文化的に進んだ地からやってくる季節移住者の視点でしかないが。§
   狐・・・四足九尾
豎亥・・・右手把 左手指青丘
  帝 or 禹→命(歩)→豎亥 [計測結果]東極〜西極=500,109,800歩
【K齒國】K食稻啖蛇一赤一青 or K首食稻使赤蛇
§暑く湿潤な地域に目立つ"お歯黒"習慣の地。「楚辞」を見ると、呉の習慣に入った時期があったようだから、遠洋航海当たり前の西太平洋島嶼族が拡げたものだろう。歯の疾病防止に効くということか。これからすると、この国はメラネシア族かも。尚、口腔内が赤黒くなるキンマ噛み習慣とは分布が異なるので、ご注意の程。§
  扶桑@湯谷
【雨師妾國】K兩手各操一蛇左耳有青蛇右耳有赤蛇(K身人面操一龜)
§太平洋西側はモンスーン気候であり、島がそれなりに大きくないと旱魃問題はおきない。それよりは台風といった豪雨暴風の問題が大きいのが普通。ところが、古代において、雨神祈願が必要な国があったのである。と、すれば、高い山地が中央を南北に走っている台湾の西側か。そこは猛烈に危険な毒蛇のオンパレード地域でもあることだし。§
【玄股之國】股K衣魚食使兩鳥夾之
§カモメ食ということは、陸地が狭く、かなりの離島と見てよいだろう。魚の概念には、水棲獣も含まれるので、海獣の毛皮を着用していることを指している可能性が高い。寒冷地の乾燥空気ならよいが、湿潤な地には向いていない衣類であるが、それが一番手っ取り早いのだろう。
股は普通は隠されており、色などわかる筈もない。そうなると、その箇所特有の黴が原因の皮膚性疾患が蔓延しており、乾燥させる必要から、出来る限り剥き出しにせざるを得ないということか。部外者は時にその姿をチラリと見てビックリ。治った後の皮膚が黒色化している訳だ。§

【毛民之國】身生毛
§毛が生えているというのは、毛深さではなく、いかにも暖かそうな毛皮の衣類をはおっていることを示すのであろう。交流域の島嶼としては一番北方に位置するのだと思われる。§
【勞民國】K食果草實
§果物豊富で食料の心配全く無しの熱帯の小島であろう。ただ、なにもしない訳ではなく、適地を見つけて移植し放置すると言った手法の農業と海浜漁撈の社会だと思われる。見かけは樂そうに見えるが、蛋白質摂取のためには、日中に結構動き回る労働が必要であり、重篤な日焼けは避けられそうにない。§
   兩頭鳥・・・教民 人面目手足盡K


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