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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2017.6.3 ■■■

腥の訓は"なまぐさい"で、魚や肉から発生する臭気の「生臭さ」を指すとされている。仏教に起因する肉禁忌の国であったから、そこから"けがわらしい"と読み替える方もおられるようだし、生臭坊主を意味する文字だったりもする。
そこらの話。・・・

伊尹幹湯,言天子可具三群之蟲,

 水居者腥,
 肉
 草食者也。

伊尹は、殷 湯王の宰相。
天子に拝謁して言うことには、
3群の動物を供えるべきでしょう、と。
要するに、こう謂ったのである。
 「水棲動物は"腥"。
  肉食動物は""。
  草食動物は""。」


"腥"の文字群は、通常、生理学的に鼻の臭腺で感じる"生臭さ"を意味するとされるが、多分に直感的な(直観ではない.)概念ではないかと思われる。
 腥=肉+星(生の当て字というより,輝く意味だろう.)
 =肉+(臭気が立ち上る様を言うのだろう.)
 =肉+亶(多穀的な気が充満するのだろう.)
_└→羶=羊+亶

常識的には、誰でもが生理的に臭いと感じるのは、やはり羊肉や韮・大蒜・葱の類。これらを総称する言葉として普通は"葷羶"を用いるから、は直接的に感覚器官に感じるというより、イメージ的なものかも。

さて、この文章の出典だが、「呂氏春秋」巻第十四 孝行覧第二本味であり、そこでは料理用語彙的に登場している。
折角だから、少し長目に引用しておこう。・・・
湯得伊尹,祓之於廟,火,釁以犧
明日,設朝而見之,説湯以至味,
湯曰:
 “可對而為乎?”
對曰:
 “君之國小,不足以具之,為天子然後可具。
  夫三群之蟲,
   水居者腥,
   肉
   草食者羶,臭惡猶美,
  皆有所以。

  凡味之本,水最為始。
  五味三材,九沸九變,火為之紀。
  時疾時徐,滅腥去除羶,必以其勝,無失其理。
  調和之事,必以甘酸苦辛鹹,先後多少,其齊甚微,皆有自起。
  鼎中之變,精妙微纖,口弗能言,志不能喻。
  若射御之微,陰陽之化,四時之數。
  故久而不弊,熟而不爛,甘而不,酸而不酷,鹹而不減,辛而不烈,澹而不薄,肥而不(月侯)。…


グルメの成式としては関心が高い分野であり、だからこそ「卷七 酒食」に収載しているのだが、用語的に混乱ありと見て、一言触れておきたかったのかも知れない。
と言うのは、「周禮」天官冢宰 第一に以下の一文があるからだ。・・・
:…
辨腥香之不可食者:
 牛夜鳴,則
  (は"腐朽木頭的臭味".)
 羊毛而毳,
 犬赤股而
 鳥色而沙鳴,貍;
  (貍はタヌキ.鬱との版も.)
 豕盲視而交睫,腥;
 馬K脊而般臂,螻。
  (螻はケラ.漏との版も.)

犬が登場するので面食らうが、犠牲対象としては、一般的だから入っていて当然だろう。文字からすれば、犬は足をバタつかせる()のでということか。ただ、山という鬼は誰でも知っており、人肉食の臭気を撒き散らしながら山から里に下りて来るということで、狼や犬を指すと考えるのは自然かも。
豕は目つきが星のようということで腥。ここらの肉月漢字はそれなりに一理ありそう。

しかし、この一文を知りながら、「腥==犬, =羊, 香=牛」という解釈もあるらしい。その理屈は調べていないが、要は、字源がわからない以上どうとでも考えることが可能とされているのであろう。
今村注によれば、もともと、腥は魚臭、は獣臭、羶は羊臭だそうな。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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