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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2017.6.5 ■■■

料理の作り方

段菜で有名な、グルメの成式が注目した料理法が「卷七 酒食」に並んでいる。上流社会の特別なものは選ばなかったようだ。
漬物の美味しさ実現に拘りがありそう。・・・

【折粟米法】:
 取簡勝粟一石,加粟奴五鬥舂之。粟奴能令馨香。
"粟奴"は担子菌で穂が黒化したもの。(谷子K穗)用途は漢方薬しかありえそうにないが、それを用いると美味しくなるというのだから凄すぎ。
台無しになった粟を無駄にすまいということで、段家であみ出した利用方法だろう。そのポイントは、最優良グレードの粟に混ぜるという点。香りが楽しめるから、粟食の美味しさが引き立つというのである。おそらく、臼搗きのスキルが必要だろう。

【乳煮羊胯利法】:−
ラム肉に塩胡椒をふり、軽く表面を炒めてから、ひたひたのミルクでじっくり煮る料理だろう。ミルクがかなり減ったら完成。牛肉なら肩肉がよさげだが、羊肉の場合は脂の臭みが拡がり強調されてしまうから不適だと思うが。しかし、"胯"といった足の付け根肉なら、脂肪が少ないので向いているかも。一緒に煮るモノの選択が重要そう。粥的に作ると極旨の可能性もありそう。
【檳榔・】:
 闊一寸,長一寸半,胡飯皮。
"・"は口煩く言うという意味だが、気汁の臓器たる膽嚢[膽=肉+・ 略字"胆"]という文字使いがある。そこから想像するに、檳榔・とはビンロウ樹木ではなく、ビンロウの実の汁を十二分に出すための葉を指すのではなかろうか。ヤシ系のビンロウの葉では記載されている大きさになる訳もなく、葉以外で皮的に使えそうな部位もなさそうだから。
つまり、所謂、キンマ噛みのキンマ/蒟の葉である。胡椒系の植物だから、辛味があり、油分も感じさせる筈。好き好きはあろうが、飯を巻くのには向いている。胡飯はどのようなものかわからぬとはいえ。

【鯉鮒鮓法】:
 次第以竹枝頭置日中,書復為記字。
これは、琵琶湖の似五郎鮒を使った"熟れ鮨(鮓)"の同類。干して水分を減らし、雑菌を少なくする手間をかける違いはあるようだが。
【五色餅法】:
 刻木蓮花,藉禽獸形按成之,合中累積五色豎作道,
 名為鬥釘。
 色作一合者,皆糖蜜。
今村注によれば、鬥釘はとのこと。食べきれないほど食料を並べる意味であり、特定の食品名ではないから、魔除け的釘に擬えた美麗な飾り菓子ということだろう。鳥や獣の型押ししたものを、規則に従って沢山並べることに意義があったのだろう。菓子ではあるが、たいして美味しくはなかったようで、味わうためのものは糖蜜を入れておき、別途とりわけておいたようだ。
尚、混ぜものの木蓮の花だが、紫色と白色があるが、どちらも薬用にされている。この花に文人人気が集まった理由は、花の形が筆に似ているから、というのは明代の発想。

【副起法】:−
䬳(食偏)=である。水分リッチな麺まで含む糯米粉製品全般を指すようだ。ただ出自は客家あるいは海南島。
副を福的な縁起かつぎ文字と見れば、"裂縫"が特徴の大型スコーン型蒸パン(饅頭)、"発"である可能性が高い。多分、桃色か紅色。

【湯法】:−
とは、牛などの反芻動物の胃袋を指す。トリッパ(牛の第2胃袋"蜂巣")と同じくスープ(湯)煮込みがイイゾということだろう。
【沙棋法】:−
"沙棋"瑪の類では。ただ、非菓子ということで。ただ、この菓子名はもともと満州語だから、発祥は清朝時代の筈。(ベーキングパウダー/重曹が必要だから現代の食品.)
簡単に言えば、小麦粉パフ化粒(日本の古米利用の"爆弾"的)を飴で粘着させて直方体に固めたもの。見かけはポン菓子の"おこし"だが軽く油で揚げるものが多いようだ。"おこし"は咬んで硬さを感じさせないと駄目だが、大陸流だと、食感をカステラ並に柔らくする("瑪")。
ということで、なんらかのパフ化技術ではないか。一種の"おこげ"料理ということ。

【甘口法】:−
唐菓物では。粉類に甘葛汁を加えて煉ったものを、胡麻油で揚げるか、茹でたもの。
【蔓菁法】:
 飽霜柄者,合眼掘取作蒲形。
蕪と菜肴の漬物。十分に霜が降りている季節でないと美味しくないというのは、材料の方ではなく、乳酸発酵の都合ではないかと思う。成式は仏僧と懇意だったから、天竺伝来のこの手の菓子(Modak)を作っていた可能性が高い。形は宝珠で。
【蒸餅法】:
 用大例面一升,煉豬膏三合。
油脂分がとてつもなく多いから、饅頭や蒸パン的な包子とは全く違う。おそらく、沿岸部(浙江、福建、広東)で好まれる蒸菓子の脂肪油餅系。生麺用糯米塊とラードを混練りし、好みで甘味やナッツ等を入れた上で、蒲鉾状に仕上げる。
【梨濫法】:−
想像もつかぬ名前だが、今村注によれば、「斎民要術」の記載を考えれば、梨を無気乳酸醗酵させて得た酪汁を使うものとか。簡易漬物用に向く、果実ビネガーということか。生野菜を食べない大陸では、これは好き好きであろう。
肉法】&𦞤肉法】:−
今村注に「斎民要術」記載の手法が収録されている。実に手の込んだ肉料理である。
鮎法】:−
ナマズの湯[スープ]煮。
【治犢頭】:
 去月骨,舌本近喉,有骨如月。
月状骨は前肢の短骨。
【木耳】:−
キクラゲのなますとは、酢の物ということだろうか。
【漢瓜】:
 切用骨刀。
瓜はポピュラーな農産物。しかし、「詩経」小雅 谷風之什に皇祖にを献ずるというから、果物的な胡の系統と違って、土着の瓜は漬物にすることが多かったのかも知れない。皮が堅いから、強い方包丁でないと無理なのであろう。
【豆牙】:−
豆もやしの漬物。
【肺餅法】:−
餅にしては、食用としては不快な名前だから、円盤状という意味での用語ではないかと思う。しかし、肺という地名の料理や材料で該当しそうなものは見つからない。茶では、雲南の名山"忙肺山"があるようだが。
ただ、インドネシアでは文字通り"肺煎餅"料理があるから、その可能性も捨てきれない。トラッパを収録している成式のことだから、牛肺も食用になると、紹介しておきたかったのかも。

【覆肝法】:
 起起肝如起魚
魚の醗酵食品[]は麹系の鮓が知られているが、塩辛的に内臓を使う場合もある。肝を使う魚の漬物もあるゾということか。
族並乙去法】:−
"乙"とは魚のハラワタとか。小魚の漬物はそこらのスキルで上物になるか否かが決まるから、確かにおろそかにはできない。

法】:
 鯉一尺,八寸,去排泥之羽。
 員天肉,腮後髻前,用腹腴拭刀,
 亦用魚腦,皆能令縷不著刀。
いわゆる"なます”。生の細切りを、酢と葱で頂戴する手の料理で、珍しいものではない。方法論など不要に思われるが、グルメを追求するとなると、違ってくるようだ。肝ならわかるが、魚の脳味噌を使うとは驚いた。それと身の部位設定が鋭い。淡水魚は知らぬが、大型海水魚の背骨から脳に繋がる辺りの肉は食感も旨みも抜群。それを用いるのだから、どのようなやり方でも素晴らしいものになること間違いなし。ただ、そんな部位を使うための包丁さばきにはかなりの熟練を要するようだ。
【魚肉凍𦙫法】:
 肉酸𦙫,用魚、白鯉、魴、𩷟
魚肉と獣肉を混ぜこぜなど現代では考えられないだろうが、それは塩が簡単に手に入るという前提での話。塩や香辛料無しの蛋白な肉に、塩分あるいは調味料的役割の魚という組み合わせはありうるのではないか。
【煮驢馬肉】:
 用助底郁。驢肉,驢作鱸貯反。
"上有龍肉、下有驢肉"という言葉がある位で、ロバ肉の煮込みはおそらく美味だろう。肉用ではないから、肋筋部位も相当に固そうだが、長時間煮込みにはかえって向くかも。そして、一晩貯めた煮凝りを推奨しているのでは。今村注では、冬季の肉魚煮込みの可能性を指摘しているが、煮込んだ魚ダレを肉にかければ結構美味いのでは。試してみたい気はおこらぬが。
【炙肉𩼧魚】:
 第一,白其次,已前日味。
炙肉とは魚肉であると考えた。𩼧とは、どう考えても、白身魚では最勝という意味である。じっくり炙り焼にすると、翌日、ニラミ鯛的な旨さを味わえるということであろう。魚はなにかという質問は野暮である。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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