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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2017.7.4 ■■■

落雷への態度

特に危険があるとは思えない状況でも、雷に恐怖を覚える神経症体質の子供は少なくない。高所恐怖症のようなものだ。
その一方、どちらでも、そんなものの何が怖いのだと大いに強がりを見せる人が矢鱈に多い領域でもある。

そんな感覚で読むと面白い話。・・・

貞元初,鄭州百姓王幹有膽勇,
夏中作田,忽暴雨雷,
因入蠶室中避雨。
有頃雷電入室中,K氣暗。
幹遂掩戸,把鋤亂撃。
聲漸小,雲氣亦斂,幹大呼,撃之不已。
氣復如半床,已至如盤,豁然墜地,
變成熨鬥、折刀、小折鐺焉。

普段の生活態度から、大胆で勇気があると見なされている男の話である。
見かけとは違って、実は、雷には滅法弱かったのである。

その男、田圃で作業中、突然の雷雨に襲われた。
まさに、命からがら蠶室に逃げ込んで、クワバラクワバラ状態。暫く、そこでじっと潜んでいたのである。
だが、面子にかけて、そんなことを言える訳がない。
しかし、いち早く小屋に入り、いつまでも出てこないのを、皆に見られているのである。
これをどう取り繕うべきか思案のしどころ。

結局、皆に以下のように事情を説明したという。・・・

イヤー、雷神の気が小屋の中までやって来たのには、閉口したゾ。
俺様を脅そうとでも考えたのだろう。
そこで、早速、こやつを鋤で乱撃。ついには床に墜落だヨ。
完璧に退治してやった。その様を見てくれヨ。
ホレ、これがその残骸、と。

熨鬥
[のし]、折れた刀、が小さく折れた鐺[三本脚の鼎]であった。

これは大人ならではの強がり。
しかし、本当に肝が据わっていれば、子供だろうが、というか、子供だからこそ、冷静な目で眺めることもできる。
続いて、そんなお話。・・・

成式至コ坊三從伯父,
少時於陽羨家,乃親故也。
夜遇雷雨,
毎電起,光中見有人頭數十,大如栲

道士になって、泰伯廟/至コ祠[154年建立@蘇州[呉国の祖,周 武王曽祖父長男を祀る。額鐫"至コ坊"。]に居る三從伯父[親の従兄]は、少年だった頃、常州の陽羨@江蘇に住んでいた。
昔なじみの人
[親故]の家である。
たまたま、そこで、夜、雷雨に遭遇。
せっかくだから、じっくりと外で観察することに。

電光がたびたび発生した。
その光の中を目をこらして、何回も見ていたのだが、
数十もの人の頭が並んでいるのは間違いないとの結論に達した。
その大きさはほぼ栲
[柳条で編んだ半球に弧形柄が付いた食物用容器]

強いフラッシュ光を見つめると、黒い残像が残ることが多い。と言うことは、かなり近くの落雷ということになろう。危険をものともせずに見つめていたと考えるべきだろう。
教え込まれた伝説や道教教義の眼鏡で見ず、しっかりと閃光を見据えていたようで、なかなかの観察眼と言えよう。成式も同じ経験がありそう。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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