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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2017.7.24 ■■■

元祖蛇龍にかこつけて

一寸した逸話。・・・

有史秀才者,元和中,曾與道流遊華山。
時暑,環憩一小溪。
忽有一葉,大如掌,紅潤可愛,隨流而下。
史獨接得,置懷中。
坐食頃,覺懷中漸重。
潛起觀之,覺葉上鱗起,栗栗而動,
史驚懼,棄林中,遽白衆曰:
 「此必龍也,可速去矣。」
須臾,林中白煙生,彌於一谷。
史下山未半,風雷大至。

  [卷十五 諾皋記下]
時は、元和[806-820年]
史という秀才の話。
かつて、道教の人達と華山
@陝西華陰に遊びに行った時のこと。
暑かった日だが、憩うに丁度手頃な小さな渓流沿いにいた。
突然、掌位の大きさの1枚の葉があるのに気付いた。
紅色で潤っており、可愛らしく、
流れに乗り下って行くところだった。
史は独りだったが、それを上手く拾い上げることができた。
そして、懐の中に大事にしまったのである。
皆と、坐して食事をしていた頃合いだったろうか、
懐の中の葉に、だんだんと、重量感を覚えるようになってきた。
そこで、探り出して観察してみると、
葉の上に鱗が立ち上がり始めてい た。
そして、それは栗々として動き始めたのである。
史は驚愕し、その葉を林の中に棄てた。
周りの人達も真剣な表情となり、あわてて、言った。
 「それは間違い無く龍だ。
  できるだけ速やかにここから逃げよう。」
僅かの間に、林の中に白煙が上がって来た。
そして、その谷は、あまねく煙に包まれてしまった。
史が半分ほども下山していないというのに、
強風が吹き、大きな雷が轟き始めた。


林の中で"紅潤可愛的葉"といえば、紅葉した楓を指すと考えてよいだろう。それなら、葉がほとんど落ちてしまった冬に、1枚残っていた最後の葉が渓流に流れてきたという情景になりそうなものだが、時は暑い盛り。
と言うことは、「山海経」記載の六足四翼の蛇"肥𧔥"@▲太華之山(西山1系)[→]を指すのかも知れない。
(ちなみに、南方熊楠は龍の祖先と見なしている。[「十二支考」"田原藤太龍宮入りの話"])

つまり、史は、掌に載せることができるほどの大きさの赤色トカゲが流されてきたのを拾い上げて救ったということ。まるで楓の葉のようだとなるが、崋山辺りでは山蛇の範疇として扱われていたのではないか。
2,000m級の山になれば、天候急変はよくある。なんとなく、涼しくなってきたりして。
そうなると、隠れて救助して、懐で温めていたトカゲが気になってくる。
そこで出すことにした。
しかし、なんなんだ、山蛇を懐に入れたりして、と言われるのもナンなので、珍しい葉っぱを拾ったつもりだったけど、ナント鱗がついているではないか、と冗談半分に言ってみたのだろう。
だが、道教的修行を始めている人達からすれば、それは"肥𧔥"が変身した姿ということになろう。全員、真っ青になって、一目散の図。
たまたま気象も急変してきた。

この話はこの後尾鰭がついて、皆が語るようになったという展開。それを成式が拾ってみたのだろう。
どうかな、この推定。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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