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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2017.8.5 ■■■

虱と毒

シラミが人と化したという創世記神話の登場を期待したが、それはなし。
意外と言ってはなんだが、まともな話。もっとも、以下を読んで、そう感じる人は稀だとは思うが。・・・

【虱】,
舊説虱蟲飲赤龍所浴水則愈。
虱惡水銀。
人有病虱者,雖香衣沐浴不得已。
道士崔白言,荊州秀才張告,嘗捫得兩頭虱。
有草生山足濕處,
 葉如百合,對葉獨莖,莖微赤,高一二尺,
 名虱建草,能去虱。
有水竹,葉如竹,生水中,短小,亦治虱。

   [卷十七]廣動植之二 蟲篇]

虱蟲とは、虱蠱[虱を用いる道教の呪術]を指しているのではないか。多分、選抜した虱を食わせて"蠱病"を発症させて殺そうというもの。治したかったら、赤龍の浴びた水を飲むしかないということになる。
現代人には胡散臭く見えるが、食中毒とか尿毒症で死ぬのは、これが原因と考えていた可能性があろう。(伝染病媒介者と見られていたと読むこともできないではないが。)舊説と言っても、おそらく、様々な見方が乱立していたろう。

一方、シラミが水銀をにくむ[惡]との話は意味がありそう。
水銀毒を外用薬的殺虫剤として使っていたのかも。
現在、認可されているのは安全性の観点で除虫菊の有効成分に類似のピレスロイド系だけだろうと思うが、有機燐系は急性毒性が高いのだから効果だけは抜群かも。
もっとも、有機塩素系のDDTが防疫用定番だった時代はそれほど昔の話でもない。
しかし、そんな化学物質がなかった時代のこと。水銀化合物だけは入手できた訳で。

シラミがつくと、シラミが嫌う坊虫香を焚き込めた衣類と、沐浴は少々の効果があるものの、それほどたいしたものではない。

道士の崔白が言うことには、荊州の秀才である張告が、嘗て、兩頭の虱をつかまえたことがあるそうナ。・・・突然変異が多そうな生物ではあるものの、頭が2つはどうなのだろうか。可能性は否定できぬが。

山の足元の濕地に生える草で、葉が百合のようなものがある。茎は分かれずに単独で、葉は対。茎は微妙に赤味があり、高さは1〜2尺。
この草の名前は虱建草と言う。シラミとその卵[虱]を取り去る効能があるとされる。
後世に、この部分が引かれることが多いが、無毒とされているようだ。それだと殺虫効果は期待できないから、なんらかの忌避的香りがする植物なのだと思われる。

竹のような葉を持つ水竹という植物があるが、これは水中に生えており、短小ではあるが、虱に効果がある。

水竹だが普通は孟宗竹を指す。[Flora of China](食用の場合は毛竹と書いてあることが多いし、地域性を示したい時は江南竹と呼ぶ。)
しかし、ここでは、水中に生え、短小だから、当てはまらない。
どのようにして虱に対抗するのかわからぬが、竹櫛で毛についている虫と卵を梳くい取るということか。水に漬けてついたものをぬぐいながら行う必要があるということで、この手の竹が選ばれたのかも。
あるいは、水仙が持つような毒があるということか。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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