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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2017.8.10 ■■■

蝗の位置付け

蝗害は中華帝国につきもの。そのなかで、反儒教を露わにしたお話。・・・

【蝗】,
荊州有帛師,號法通,本安西人。少於東天竺出家,
言蝗蟲腹下有梵字,或白天下來者,乃利天梵天來者。
西域驗其字作木天壇法禳之。
今蝗蟲首有“王”字,固自不可曉。
或言魚子變,近之矣。
舊言蟲食谷者,部吏所致,
侵漁百姓則蟲食谷。
蟲身K頭赤,武吏也。頭K身赤,儒吏也。

荊州の帛師のこと。
号は法通。安西出身。若い頃に東天竺で出家。
法通が言うには、
 蝗蟲の腹の下に梵字在り。
 あるいは、
 白昼天から下って来た者は、利天や梵天からの来訪者なり。
西域では、その文字を調べた上で、"木天壇法"にて、お祓いをしたという。
今、蝗蟲の頭部に“王”字が読めるが、未だにはっきりと理解することができずにいる。
魚の卵が化けたという人もいるが、当たらずも遠からずであろう。
そもそも、昔から、
虫が穀類
[谷]を食う者なのは、官吏が致す所に他ならぬ。
百姓の領分を漁り回り、侵入すれば、
即、穀類は虫に食われるだけのこと。
身体が黒く、頭が赤い虫は、武官であるし、
頭が黒く、身体が黒いのは、儒官ということ。


論旨が必はっきりしないが、イナゴの身体に“王”字が読めるとの説は確定しているとは言い難いと主張しているのであろう。後世、それは当たり前の話になってしまうのだが。・・・
蝗字從皇,今其首腹皆有王字。
   [北宋 陸佃[1042-1102年]:「񎯄雅」釈虫 螟]

思うに、“王”字説には、天での入墨刑を示しているという発想が透けて見える。法通は、天からのメッセージはそんなものではないのでは、と考えていそう。前者はもちろんプロ儒教で、後者はアンチ儒教。

要するに、プロ儒教の論理とは、蝗害が発生して民が飢えるのは、為政者が祭祀を滞りなく挙行してこなかったからというもの。正史に細々と記載されている蝗害は常にそう読むべしと、ご指導をくう訳である。・・・
安帝永初四年夏,蝗。是時,西羌寇乱,軍衆征距,連十余年。
 {讖曰:「主失禮煩苛,則旱之,魚螺變為蝗蟲。」}
   [「後漢書」志第十五 五行三 蝗【注記】]
先儒以為人主失禮煩苛則旱,魚螺變為蟲蝗,故以屬魚。…
 :
占曰:「國多邪人,朝無忠臣,居位食祿,如蟲與民爭食,故比年蟲蝗。」

   [「新唐書」卷三十六 志第二十六 五行三 蝗]

蝗害とは、そういうことでなく、官僚の仕業と同じようなもの、と言うのがアンチ儒教派である。儒者など、所詮は収奪に忙しい、群れるイナゴの一部に過ぎぬと書いて、この譚を終えている訳だ。
もちろん、そういった主張を展開した識者も存在するのだが、官僚制が根幹をなす帝国では所詮通らぬ理屈である。
變復之家謂蟲食谷者,部吏所致也。貪則侵漁,故蟲食谷。
   [王充[27-97年]:「論衡」商蟲篇第四十九]

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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