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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2017.8.25 ■■■

道教的ナンダカ話樹木篇

「卷十八 廣動植之三 木篇」の道教的ナンダカ話をまとめて眺めておこう。

○ 先ずは、中華帝国ではお好みの、吉祥が現れたとの大騒ぎ話から。・・・
【異木】,
大歴中,成都百姓郭遠,因樵獲瑞木一莖,
理成字曰“天下太平”,
詔藏於秘閣。

大歴期[代宗の治世最後:766-779年]のこと。
成都の百姓、郭遠が樵をしていて、瑞木1茎を獲得。
筋目で字ができており、
“天下太平”と読めた。
帝は詔を発し、それを秘閣所蔵品とした。


瑞兆と理屈がつくなら、なんだろうと見つけて報告すれば褒賞ものである。当然ながら、皆さん鵜の目鷹の目。生きていく知恵としての胡麻擂り技術である。
独裁者と官僚制度の両輪で統治するのだから、そうなる運命。しかし、それは社会安定という視点で見れば大きな効果を発揮しているのは間違いない。
ただ、そこに逆風が吹き始めると、今度は凶兆のご報告だらけとなる。独裁者にとっては痛し痒しであろう。
特に、代宗の場合。

○ 次は、天尊形像の発現。・・・
都官陳修古員外言,
西川一縣,不記名,
吏因換獄卒木薪之,天尊形像存焉。

刑部輔[都官]として員外郎を務めていた陳修古が話すことには、
地名は表だって記載できないが、
剣南@四川西川節度使@成都が治めているある県で、
官吏が獄卒木を換える際に、薪にしてしまったという。
すると、天尊の形象がその柴の上に在ったという。


獄卒というと、仏教のお話の地獄で、亡者達を責め苛む図を想い浮かべべてしまうが、これは現世の牢獄の看守なのだろう。
その木とは何かと言えば、獄卒常用の木製刑具だろうから、"木手/像手"と呼ばれる短かい棍木[俗称は鬼頭棍で、彫刻をなくせば、後世の警棒に相当する。]ではないか。思いっきり叩くのだから、廃人もしくは死亡することも少なくなかったであろう。

そのような木を薪にするのであるから、そこに発現するのは、"太乙救苦天尊"だろう。
仏教の引渡受苦亡魂往生との浄土教的概念を取り入れた道教の神であるが、形象発現の辺りは観音信仰の色彩が感じられる。おそらく、像手の彫刻が九頭獅子に見え、焚火が口吐火焔の姿に映ったと思われる。

時期も記載されていないが、この地域は、唐 v.s.吐蕃と南詔国の対立構図上の一番の接点。そのなかでも、反抗的な地だったとすれば、姚州か。

○ 仙人修行の地に育った樹木の話。・・・
【異樹】,
婁約居常山,據禪座。
有一野嫗,手持一樹,植之於庭,言此是蜻樹。
久,芬芳郁茂,
有一鳥身赤尾長,常止息其上。

婁約の話。
“北岳”恒山がある常山郡@河北石家莊でのこと。
禪座を組むことを拠り所にして生活していた。
そこに、さも教養がなさそうな老女が一人であらわれた。
その手には一本の樹木。
そして、その木を庭に植えた。
そして言うことには、
 「これは蜻樹。」と。
それから何年も経ってみると、
その木は芬々と香気が流れ、生い茂るまでに。
そして、身体は赤色で尾が長い鳥が
一羽、常にその樹の天辺に留まって休息していた。


いかにもスットボケた話である。
はトンボである。細い棒の天辺や、穂の先端に留まる習性がある。
赤い鳥を天辺に留まらせるから、"蜻樹"というのであろう。一時代前の鳥トーテム信仰の象徴でもあり、それが道教のもともとの姿かも知れぬという印象を与える話である。

○ 穴の先は異界。・・・
【異果】,
贍披國有人牧羊千百余頭,
有一羊離群,忽失所在。
至暮方歸,形色鳴吼異常,群羊異。之。
明日,遂獨行,主因隨之,入一穴。
行五六裏,豁然明朗,花木皆非人間所有。
羊於一處食草,草不可識。
有果作黄金色,牧羊人切一將還,為鬼所奪。
又一日,復往取此果,至穴,鬼復欲奪,
其人急之,
身遂暴長,頭才出,身塞於穴,數日化為石也。


贍披國は「大唐西域記」卷十に登場する印度の恒河下流南岸の瞻披/Champāではなかろうか。
人々はもともとは地の穴に住んでいたとの伝説がある地だし。穴から入ると別世界があり、そこの見知らぬ草を羊が食べると違った雰囲気になるとの話はそんなところから来ているのかも。
(尚、ここでは羊だが、今村選定版では牛となっている。)
ただ、それは鬼(零界)が棲む世界だから、そこの果実も鬼(亡者の靈)用であり、現生のヒトが食せば石になってしまるという感覚なのだと思われる。
尚、Champāは前6世紀にはインド16大国に入っていたという。釈尊生存の頃の大都会だった訳であるが、「大唐西域記」の時代になると、伽藍はあるとはいえ、寺院は崩壊しつつあったのである。
この地名は、靈木の一種と思われる"銀厚朴/Campakaから来ている。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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