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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2017.9.6 ■■■

秀才道士の画術

ほとんど何の意義もなさそうな道術の紹介。・・・
貞元末,開州軍將冉從長輕財好事,而州之儒生道者多依之。
有畫人寧采圖為《竹林會》,甚工。
坐客郭萱、柳成二秀才,毎以氣相軋。
柳忽眄圖謂主人曰:
 “此畫巧於體勢,失於意趣。
  今欲為公設薄技,不施五色,令其精彩殊勝,如何?”
冉驚曰:
 “素不知秀才藝如此!然不假五色,其理安在?”
柳笑曰:
 “我當入被畫中治之。”
郭撫掌曰:
 “君欲紿三尺童子乎?”
柳因邀其賭,郭請以五千抵負,冉亦為保。
柳乃騰身赴圖而滅,坐客大駭。
圖表於壁,衆摸索不獲。
久之,柳忽語曰:
 “郭子信來?”
聲若出畫中也。
食頃,瞥自圖上墜下,指阮籍像曰:
 “工夫只及此。”
衆視之,覺阮籍圖像獨異,吻若方笑。
寧采睹之,不復認。
冉意其得道者,與郭謝之。
數日,竟他去。
宋存壽處士在冉家時,目撃其事。
  [續集卷一 支諾皋上]
貞元の期末[805年]のこと。
開州
[@重慶]に、軍將の冉從長がいた。
財務を軽んじ、もっぱら物事を好む体質だった。
お蔭で、州内の儒者や道者の多くから頼みにされていた。
寧采という画人がいたが、
「竹林会」と題した図を描くことが、まことに巧みだった。
客として二人の秀才が坐していた。
郭萱と柳成だが、互いに気があわず軋轢状態がつづいていた。
その片方の、柳は図画を見やって、主人に言った。
 「この画は、体勢という点では実に巧み。
  しかし、意趣の観点では失望させられますナ。
  今、貴公の為に、拙い技ではありますが、
   御目にかけたく存じます。
  5色を使ったりせす、
   その精彩を特別に優れたものに仕上げたいのですが、
   どんなものでしょうか?」
冉は驚いて、言った。
 「秀才殿が、そのような芸の持主とは露知らず。
  しかれども、5色を施さないとは。
   一体、その理由はどこにおありでしょうか?」
柳は笑って応えた。
 「私が、そこにある絵画の中に入って、治すのですヨ。」
それを聞いた郭は手を摩りながら、言った。
 「君は三尺の童子を欺こうとしたいのかネ。」
柳は、すかさず、それなら賭けようと要求した。
郭は、負けたら5,000相当にしようという言い出し、
冉がその保証人となった。
そこで、柳は高くはね上がって、図画の中におもむき、
 なんと、消滅してしまったのである。
坐していた客一同はビックリ仰天。
その図画は壁表にあったから、
皆で捕獲すべく模索してみたものの無駄だった。
暫くするうち、忽然として、柳が語り始めた。
 「郭坊、これで信じてくれるかネ?」
声は、図画の中から出ているようだった。
食事時になって、図画がちらついたと思っていたら、
 その上から、柳が墜ちてきた。
そして、図画に描かれている阮籍像を指して言うことには、
 「工夫はしてみたものの、せいぜいがあの程度。」
一同は皆、これを視たが、
阮籍の図画の部分だけが独特で異なっていることに気付いた。
その唇部分は笑いだしそうに見えた。
ただ、寧采も見たが、その確認はできなかった。
冉は、これは道術を会得した者を意味すると悟り、
 郭と一緒になって謝った。
處士だった宋存壽が冉の家に厄介になっていた時だが、
この事件を目撃したそうである。
数日後、柳は、ついに他所へと去ってしまった。


典型的な道士による道術話である。

必ずと言ってよいほど、術使いはその後行方知れずか、二度と合えない場所へ消える点が特徴。
"王様は裸だ!"と言う人が出ない限り、こうした話はいつまでも続くのである。下手に否定すれば、反道教、つまり反社会的な危険分子として血祭りにあげられるのが関の山だから、そんなことができる訳がない。従って、他愛のない話に仕上げてあるのがミソ。

読み方によっては、この絵は柳秀才の墓標にも思えてくる。絵の評価で対立し、殴ったら死んでしまったということ。パトロンとして君臨している冉は、それを上手に解決しただけ。その点だけとってみれば、"一件落着"で、実に有能な官僚と言えよう。
寧采は人名のようだが、お話のなかに唐突に出て来るのでそんな印象を与える訳だ。本当のところは、寧采から聞かされたんだがネ、と成式が語っていそう。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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