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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2017.9.7 ■■■

近親故人を差配する道士

月が煌々と照る晩になると、どういう訳が魑魅魍魎や仙人風の訳のわからぬモノが登場してくる。月夜には、精神状態が不安定になるのかも知れない。・・・
醴泉尉崔汾仲兄居長安崇賢裏。
夏月乘涼於庭際,疏曠月色,方午風過,覺有異香。
頃間,聞南垣土動,崔生意其蛇鼠也。
忽睹一道士,大言曰:
 “大好月色。”
崔驚懼遽走。
道士緩歩庭中,年可四十,風儀清古。
良久,妓女十余,排大門而入,輕翠翹,艷冶絶世。
有從者具香茵,列坐月中。
崔生疑其狐媚,以枕投門闔警之。
道士小顧,怒曰:
 “我以此差靜,復貪月色。初無延佇之意,敢此粗率!”
復弱゚曰:
 “此處有地界耶?”
有二人,長才三尺,巨首耳,唯伏其前。
道士頤指崔生所止,曰:
 “此人合有親屬入陰籍,可領來。”
二人趨出。
一餉間,崔生見其父母及兄悉至,衛者數十,曳批之。
道士叱曰:
 “我在此,敢縱子無禮乎?”
父母叩頭曰:
 “幽明隔絶,誨責不及。”
道士叱遣之,復顧二鬼曰:
 “捉此癡人來。”
二鬼跳及門,以赤物如彈丸,遙投崔生口中,乃細赤也。
遂釣出於庭中,又詬辱之。
崔驚失音,不得自理。崔仆妾號泣。
其妓羅拜曰:
 “彼凡人,因訝仟官無故而至,非有大過。”
怒解,乃拂衣由大門而去。
崔病如中惡,五六日方差。
因迎祭酒謝,亦無他。
崔生初隔紙隙見亡兄以帛抹唇如損状,仆使共訝之。
一婢泣曰:
 “幾郎就木之時,面衣忘開口,其時忽忽就剪,誤傷下唇,然傍人無見者。不知幽冥中二十余年,猶負此苦。”
  [續集卷一 支諾皋上]
醴泉の尉である崔汾の仲兄は長安の崇賢坊里に居住していた。
頃は夏。
庭の際で涼んでいた。散逸するも一面を照らす月の光の下、時刻は午。風が通り過ぎて行ったのだが、なにか珍しい異香を覚えたのである。
それはつかぬ間のことだったが,南側の垣の土が動いて、サラサラと音を立てているのが聞こえた。
崔生は、どうせ蛇か鼠がいるのだと考えた。
忽然として、一人の道士が出現してきたのに気づかされた。大声で言うことには、  「大いに素敵な月ですなァ〜。」と。
崔、驚愕。あわてて走って逃げた。
その道士は、ゆっくりと庭中を歩いて回った。
40才位であろうか、その風体は儀式ばってはいたが、清楚にして古流の雰囲気が漂っていた。
しばらくすると、10人余りの妓女が大門を押し開いて入ってきた。翠色が引き立つ軽い絹の衣を着ており、その艶めかしさは絶世もの。
從者がおり、香しいふとんを用意しており、月の光の下で一列になって坐した。
崔生はこれは狐の媚態ではないかと疑い、枕を門扉に投げて警告を発した。
すると道士は一寸顧みて怒りをこめて言った。
 「我は此の地が比較的静かで,
  また、月の色に魅入られていただけ。
  初めから、長々と佇んでいる意図など無い。
  にもかかわらず、敢えて、
  そのような粗暴な行為をするとはけしからん!」
又、激しく力を込めて言った。
 「此の場所には地界はおるのか?」と。
すると、身長3尺にして、首から上が巨大で垂れ耳の二人が現れて、その前に平伏したのである。
道士は顎で崔生が居る所を指して行った。
 「そいつには、陰籍に人っている親族がおろう。
  領導してまいれ。」と。
2人小走りに出て行った。
一度飯を食ふ程の短き時間で、崔生は自分の父母と兄すべてが連れてこられたのを見た。数十の衛者が髪を曳いて連れて来たのである。
道士は叱咤。
 「我は此処に居る。
  にもかかららず、敢えて、子に放縦を許し、
  無礼を働かせたのか?」
父母は頭を叩いて言った。
 「子は幽界から隔絶された世界におり、
  誨責は及ばないのでございます。」
道士は叱った上で、かえした。
再び、二人の鬼の方を向いて言った。
 「そこに居る癡人を捕捉して連れて來い。」
二人の鬼は跳躍して門のところに来て、赤い弾丸のような物を、はるか遠くにいる崔生の口の中に投げ込んだ。それは赤色の細い紐であった。
遂に、その紐で釣られて、庭の真ん中に出された。そして、又、謗られ侮辱された。
崔は驚愕で失音状態。自ら理を語ることもできなくなってしまった。崔家の僕や妾は号泣。
そこに、妓がとり囲んで拝み始め、言った。
 「彼の人は凡人なり。
  よって、仟官を訝しく思っただけ。
  他に、何の、理由もありませぬ。
  大きな過ちがあった訳ではないのです。」
それを切欠として怒りが解けた。
拂が衣を振るような素振りで、大門から去って行ったのである。
崔は悪にやられたかのように病んでしまい、5〜6日だってようやく良い方向に。
ということで、祭酒を迎えて、災厄を消除する道教的な祭祀を執り行った。再び、何事も起きなかった。

崔生は初め、紙を隔てて隙間から亡兄が帛で唇をこすりつけるのを見た。どこか毀損しているようだった。僕も同じで、共に、それを訝しく思った。
すると、一人の婢が泣いて言いだした。
 「幾郎様ご入棺時のことです。
  被っていた面衣に開口部を着けるのを忘れてしまいました。
  そのため、その時にそそっかしくも剪刃を使いまして、
  誤って下唇を切ってしまったのです。
  然るに、傍にいた人達は、それを見ていませんでした。
  幽冥の世界に下られて、もう二十余年も経ちますのに、
  未だにその苦しみを負っていらっしゃるとは。
  そんなこととは、全く知りませんでした。」


最後のパラグラフはとってつけたような感じがする。
しかし、これがないと、そんじょそこらのお話でしかない。道教譚はどうしてもそうならざるを得ない。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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