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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2017.9.8 ■■■

恣意的な誤記

「續集卷四 貶誤」の冒頭は、"可笑しな使い方"の例として、碁の「5並べ」ゲーム用語から始まる。
これはある意味でこの巻の序文でもある。表向き、笑止千万な誤謬を書きとどめるということで。・・・
 實為可笑乃録賓語甚誤者,著之於此。

そのゲームは以下のように書いてある。・・・
小戲中於局一,各布五子角遲速,名"蹙融"。
予因讀《坐右方》,謂之"蹙戎"。


唐 李匡義:「資暇集」卷中に“今有奕局,取一道人行五棊,謂之蹙融,‘融’宜作‘戎’。此戲生於 黄帝 蹙鞠,意在軍戎也,殊非圓融之義。"とあるそうだ。皇帝が異人軍を蹴鞠の如くに扱って勝つということなのだろうか。

しかし、何故に"戎"が、"融"になったかは自明ではない。"祝融"を指すのだろうか。
尚、"蹙融"という人名は存在しているようだ。・・・
「韓非子」説林下には、楚の荊王の討伐軍が現れたので、呉は敵軍をねぎらうために"沮衛蹙融"を使者として派遣。楚の将軍は、こやつを縛って血祭りにあげ、鼓に犠牲をささげよ、と。その呪的音声で呉軍を平伏すべしというのであろう。・・・
荊王伐呉,呉使"沮衛蹙融"犒於荊師而將軍曰「縛之,殺以釁鼓。」
ま、この後は言わずとしれた、ご教訓話になるのである。"沮衛蹙融"は、将軍に殺されるなら、これぞまさしく占トででた通り、"吉"だと説明するのである。
もちろん、殺されずにすむ訳だ。

お次は、人名の間違い。・・・

嘗覽王充《論衡》之言秦穆為繆(音謬),


昔のことだから間違いもあろうではすませられぬゾと言っているのである。
又言"秦繆公"有明コ,上帝賜之十九年,是又虚也。 [王充:「論衡」卷第二無形篇第七]
しかし、中華帝国だから、人名を歴史に残そうという人だらけであり、こうしたミスは許せぬということとは違うと思う。
重要なのは、王充の書である点。(批孔批林の方々が愛好した本でもある。)
と言うか、鬼の存在を否定する論攷が収録されている点で成式の時代でも異端書だったに違いないのである。しかし、だからこそ成式はとりあげたかったのだと思う。成式も鬼の存在など信じていなかった訳だし。

世の中どうなっていたかといえば、「玄怪録」崔尚がわかり易かろう。・・・
開元時,有崔尚者,著《無鬼論》,詞甚有理。既成,將進之。忽有道士詣門,求 見其論。
讀竟,謂尚曰:
 「詞理甚工,然天地之間,若云無鬼,此謬矣。」
尚謂:
 「何以言之?」
道士曰:
 「我則鬼也,豈可謂無?
  君若進本,當為諸鬼神所殺。不如焚之。」
因而不見,竟失其本。(出《玄怪録》)
   [@「太平廣記」卷第三百三十 鬼十五 ]

開元の頃。
崔尚が《無鬼論》を著した。
理路整然。完成し、上に進呈しようと考えていたら、
突然に道士の訪問。
書論を見せるよう要求される。
読後、崔尚に対し、
 「理屈は良く作られている。
  然れども、
  天地の世界に若しも鬼がいないと言う主張は誤謬。」と。
そこで、崔尚は言った。
「何故に、そう言えるのか?」と。
道士はそれに応えて、
「某が即ち幽霊そのものなのだ。
  いないと言える訳があるまい?
  君が若しもその本を奏上したりすれば、
  当然ながら君は鬼達にに殺されてしまうぞ。
  本は焼却処分する以外に手はない。」と。
そう言うと、消えてしまった。


お次。・・・

往往見士流遇人"促裝"必謂之曰
 “車馬有行色”,


"促裝"とは、迅速整理行裝。
それを、何故に、“車馬有行色”と言うのか、お考えになったことがありますかナ。・・・
孔子再拜趨走,出門上車,執轡三失,目芒然無見,色若死灰,據軾低頭,不能出氣。
歸到魯東門外,適遇柳下季。柳下季曰:
 「今者闕然數日不見,車馬有行色,得微往見跖邪?」
   [「荘子」雜篇 盜跖第二十九]

孔子は再び拝礼し遁走。門を出て乗車したのだが、手綱を3回も落とした。目は茫然の態で何も見えていない様子。顔色は灰色の如きで、車の木にもたれてうつむくばかり。気力喪失である。
魯の東門を出ると、柳下季に遭遇。
 「ここのところ数日間、お見かけしませんでしたナ。
  車馬のあせっている雰囲気からすると、
  跖のところにでも、お出かけでしたか?」


最後はコレ。・・・
"直臺"、"直省"者雲 “寓直”,

“直臺”"直省"とは、おそらく"夜直省舎"の略語であろう。官署の夜間宿直を指す訳だ。
しかし、その言葉より“寓直”が一般的になっている訳だが、どういうことかというのである。
寓とは仮住いという意味であるというのに。
まさか、愚直の意味を被せた訳でもあるまいナ。

辞書記載の出処。・・・
晉十有四年,余春秋三十有二,始見二毛,以太尉掾兼虎36033中郎将,寓直于散騎之省。  [晋 潘岳:「秋與賦」@「昭明文選」]

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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