表紙 目次 | ■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2017.9.9 ■■■ 入試模範解答いかにも「續集卷四 貶誤」に収録しそうな、科挙におけるお話。・・・範傳正中丞舉進士,省試《風過竹賦》, 甚麗,為詞人所諷。 然為從竹之“簫”非蕭艾之“蕭”也。 範傳正の役職は中丞。進士に推された時の省の試験内容は「風過竹賦」だった。 「風過竹賦」は、甚だしく麗筆な書であり、詞を得意とする人々によって諷誦される類のもの。 それはそれとして、 ここに言う"簫"とは、 "竹"冠であり、"蕭艾"の"蕭"ではないのである。 (小さいフォントだと、冠の違いを見落とがちなのでご注意あれ。) 「風過竹賦」をベースとして、"簫賦"を書けという類の試験問題だったたのかネ。 簫はもちろん、竹管の縦笛であるが、解答は"蕭艾"的なものだらけだったのにはマイッタ、とのお話を耳にしたのだろうか。 "簫"[=竹+粛]と似ている"蕭"[=艸+粛]の"蕭艾"とは植物の臭草。文意的には不肖という意味の比喩表現に使われるらしい。・・・ 何昔日之芳草兮,今直為此蕭艾也。 [屈原:「楚辭」離騷] どうして、そんな間違いをしでかすのか。 そこで、"蕭"の話が続く。・・・ 《荀子》雲: “如風過蕭,忽然已化。” 義同 “草上之風必偃”, 相傳至今已為誤。 「荀子」にはこうある。 「風が蕭を過ぎていくように、 忽ちにして、変化してしまう。」 この意味はこんなところ。 「草の上を風が吹くと、必ずそれに靡く。」 伝えられていうのは、今になっても、未だに、誤用。 今村注によれは、成式は「荀子」から引用したと書いているが、残存版にはこのような箇所は見つからないそうだ。 そのような別版があったのか、はたまた成式流の、意図的に間違ったふりをするパロディかは、素人には判断がつかぬが。 もし、恣意的な記述とすれば「風にしたがいて呼ぶ」の意味をのせたかったということになろうか。(風の勢いに乗って動けば、いとも簡単に世渡りできる、といった比喩。) 登高而招,臂非加長也,而見者遠; 順風而呼,聲非加疾也,而聞者彰。 [「荀子」第一卷 勸學篇第一] 同時に、「淮南子」からも引用。・・・ 予讀《淮南子》雲: “夫播棋丸於地,圓者趣圭,方者止高,各從其所安,夫人又何上下焉。 若風之過簫也,忽然感之,可以清濁應矣。” 高誘註雲: “清商濁宮也。” 小生が読んだ「淮南子」にはこんなことが書いてある。・・・ 「そもそも地上に棋丸を播いてみればわかるように、 円形のモノはそのおもむきによって下りていくものだし、 方形なら、高いところでそのママ。 それぞれに安んじる所があり、それに従うのである。 そうだとすれば、 ヒトの場合は、どのように上や下に行くことになるのか? もしも、風が蕭を過ぎていくなら、 蕭は、忽然として、その動きを感じ取ることだろう。 そして、清濁どのように対応することもできるのである。」 高誘の「淮南子」註記によれば、 清とは商であり、濁とは宮である。 ここでも、「淮南子」の高誘註には、当該文章は無いそうだ。今村の見立てによれば、"現行本のそれとの間に異同のあったことがわかる"そうである。 この部分については、今村注には文意の解説が無いのでつらいが、宮が登場するから、商(殷)の清濁儀式(@宗廟)の思想を語っているのかも知れぬ。 もちろん、素人感覚に過ぎないので、大外しの可能性あり。(「禮記」樂記第十九・・・以下は、五樂象の話の生半可な理解に基づく見方なので、そのおつもりで。)・・・ 然後發以聲音,而文以琴瑟,動以干戚,飾以羽旄,從以簫管。 奮至コ之光,動四氣之和,以著萬物之理。 是故清明象天,廣大象地,終始象四時,周還象風雨。 五色成文而不亂,八風從律而不奸,百度得數而有常。 小大相成,終始相生。 倡和清濁,迭相為經。 故樂行而倫清,耳目聰明,血氣和平,移風易俗,天下皆寧。 然して、後に、 聲音を發し、而して、琴瑟を奏で、干戚を動がし、羽旄を飾り、 簫管に従う。至徳の光を奮い立たせ、 四気の和を動かし、 それによって、萬物の理を著すことができる。 是の故、 清明は天に象り、廣大は地に象り、終始 は四時に象り、 周還は風雨に象り、 五色は文を成すとも、而して、亂れず、 八風律に従うとも、而して、奸ならず、 百度数を得て、而して、常有りとなる。 小大相成り、終始相生し、 倡和清濁により、 迭べく經を相生す。 それ故、 樂行は倫清、耳目聰明にして、血氣和罕となり、 風は移りて俗は易らる。 よって、天下皆寧。 "簫賦"のテストであれば、模範解答としては、ここらをベースにしてアレンジしたものにすべしということか。 (参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載. 「酉陽雑俎」の面白さの目次へ>>> トップ頁へ>>> (C) 2017 RandDManagement.com |