「酉陽雑俎」の面白さ崔家疾 (20170915)

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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ　2017.9.15 ■■■

崔家疾

名門の崔家で発生する疾病の話。・・・

世呼病瘦為崔家疾。
據《北史》，
北齊李庶無須，時人呼為天閹。
博陵崔諶，暹之兄也，嘗調之曰：
　“何不以錐刺頤作數十孔，拔左右好須者栽之。”
庶曰：
　“持此還施貴族，藝眉有驗，然後藝須。”
崔家時有惡疾，故庶以此調之。
俗呼滹沱河為崔家墓田。　[續集卷四貶誤]

名門といっても様々だが、ここに登場する崔諶の弟、崔暹[n.a.-559年]は家系図では博陵第三房という位置にあり、尚書令の次官、右僕射に任用されており、政治の中心で権勢を振るっていたと言ってよいだろう。
滹沱河を崔家の"墓田"と呼ぶほどで、その地域に宗族の大規模な墳墓があった訳だ。
今村注によれば、"社会的権威の上では、帝室より上"というのだから、たいしたものである。
お話は、眉毛無しの崔暹をからかっただけの、つまらぬ題材であるが、1"崔家疾"とは、痩せるタイプの疾病であると同時に、眉の無毛あるいは脱落症状が顕著なことがよくわかる。

今村注では、"現代医学ではなにをさすのか、本文の示すことだけでは、検討がつかない。"と。
それはその通りだが、どのような可能性があるのか考えてみよう。

考えるのが面倒な人だと、単純に「遺伝性薄眉毛」として一件落着である。頭髪の遺伝子とは独立しているという説もあり、可能性はあるが、痩せるという形質と同時に発現するという点で、小生は候補からはずしたい。

次は、ストレス性脱毛。現代では珍しくもない症状。
名門であるから、一族内での競い合いもあるし、一族を背負って、文字通り命を張って、出世街道を歩まねばならない宿命を背負っているから、そのストレスは現代人以上の筈。
この場合、突然にして、頭髪同様に眉毛を失うことになる。完全に失う例も珍しくない。
家はインテリ系だから、心痛から痩せる方向に進み勝ちでもある。
ただ、頭髪にも症状が出る可能性があるにもかかわらず、何も触れていないから、該当せずが妥当か。

家系的体質と食生活で眉の脱毛に繋がることも考えられる。皮脂の分泌が過剰であると、一般にはニキビ症状を招くことが多いが、ママ、眉毛の脱毛に繋がることもある。皮脂で穴が詰まってしまうからである。
ただ、この場合、食生活も大きく影響していそうで、どちらかといえば太る方向に行きそう。全員痩せるというのは考えにくいので、おそらく違うであろう。

そして、小生が考える本命は、甲状腺ホルモン欠乏症。
崔家の環境とは、滹沱河[山西省北部⇒河北省中部⇒子牙河]流域であり、ヨード摂取量が特異的になりがちの地域なのではないか。
日本人は、この辺りの危険性に鈍感だが、韓国では極端に甲状腺癌発生率　が高いなど、かなり影響が大きい成分なのである。日本では考えられないが、内陸部でのヨード欠乏防止策は重要なのである。
甲状腺ホルモンが欠乏すれば、無発毛状態になるから、眉毛は次第に薄くなり、ついには無毛化する。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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